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『遠出・5』

『遠出・5』

2014/08:STORY
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 “2014年7月8日、成田空港にトラベラーズファクトリーOPEN”へえ〜次は空港かぁ〜。高速道路(NEXCO中日本)、船(スターフェリー)、飛行機(BRANIF, PAN AM)、陸・海・空と来たので次はホテルかなと思っていたところにこのニュースが飛び込んで来た。一時的なコラボではなく、しっかりと腰を据えてのことなので、流石だなといつも以上に感心した。その店舗でしか手に入らないもので欲しいと思ったものは、絵葉書とスノードームだった。まあ、何処かへ旅に出るときに、利用ターミナルが同じところでタイミングが合えば寄ってみよう・・・くらいに最初は思っていた。
 7月に入り、自分の周りで・・・というか、周りの方々に節目的な出来事が続いた。それらに背中を押された訳ではないが、2001年9月11日のあのテロの後で航空会社を去って以来、空港以外には足を踏み入れていない成田へ行ってみようと思った。空港内に出来たばかりのトラベラーズファクトリーを冷やかしに行くのにもちょうどいいタイミングだったし。
 成田市の隣の富里市(当時は富里町だった)に入社時から約2年半住み、その後成田市内に引っ越して約7年半住んだ。住んでいたと行っても、住民票を移してはいたが、一部屋借りていただけで、休みが続けば都内の自宅に頻繁に帰っていた。
 7月の週末の一日、このタイミングだと思い立って出かけて行った。
思い出深いところを隅々まで回ってしまうと、いい思い出の印象が変わってしまったり、せっかく忘れていることを思い出したりしてしまうので、今回は成田山新勝寺へ続く参道と成田駅周辺のみにした。
 あまり好きではない京成電車(特に上野へ向かう上り。何だか燻り感たっぷりで運気が悪そうな感じが嫌なのだ)に乗り、先ずは成田へ向かった。

 
京成成田駅のホームに降り立つとこの大きな提灯が迎えてくれます。
この駅に降り立ち、外に出たのは2001年10月以来でした。



 お昼過ぎに約13年振りに京成成田駅に降り立った。航空会社を辞めるまでの最後の1年半は都内の自宅から電車通勤だったので、ここで下車した。富里市内にある、オフィス、乗務員が宿泊するホテル、トレーニング施設、機内食工場が一つの敷地に集まっているところまでは会社が用意した京成成田駅前発のバスを利用していた。これを書いていて思い出したがバスは会社が用意していたものにも関わらず有料だった。バスを乗り降りしたところからは、今でもお世話になっている方々が住んでいらっしゃる日吉台が望める。そちら側へ行くのはその方々を再訪するときに譲ることにした。
 新勝寺へ続く参道へ行く途中、左手にJRの成田駅がある。この駅の反対側の出口から車で数分(徒歩だと20分くらいだろうか)走ると、約7年住んでいた加良部団地がある。


このJR成田駅を左に見ながら進んでいくと、新勝寺の参道へ続く今ではすっかり観光地になった通りに続きます。JRの駅のこの入り口を抜けて反対側に出るとかつて住んでいた団地のほうに出ます。思い出が本当にたくさんあるところがこの駅の向こうに広がっています。今回はこの距離から眺めただけにしました。私の中では駅の向こうも約13年前の記憶のままです。


 オフィスまでのバスの時間や帰りの電車の時間が合わないときに、時間調整でよく利用したマクドナルドも右手にまだあって懐かしかった。信号を渡り、かつてはよくある地方の商店街の一つで垢抜けていなかった通り歩き始めた。ここから参道まで続く道が見間違えるほど・・・という完全に見間違えたが、綺麗になっていた。歩行者天国が似合う通り・・・と言ったほうが伝わるだろうか。見事に観光地に生まれ変わっていた。


周りの景観に合わせて看板の色をあえて変えてあるそうです。お店に断りを入れて撮影と掲載の許可を気持ち良くいただきました。こういった光景と考えられた計らいは、成田に住んでいて、ここを何度も通っていた頃には考えられないことでした。


 景色がすっかり変わり、ほとんど初めて訪れたに近い通りを抜けると、ほぼ記憶に残ったままの成田山新勝寺へ続く参道が目の前に現れた。ここも何度歩いたか分からないほどだった。目の前の光景と漂っている空気に時計の針を物凄いスピードで約13年前に戻された気がした。そして、懐かしさを初めとしたいろいろな感情が自分の中で沸き起こっていた。


この光景が見えて来た途端に、“戻って来たな”という気持ちにちかいもの・・・やいろいろなものを感じました。写真中央奥に新勝寺の平和の大塔が見えます。


 次々と懐かしい光景に出くわす前に、時間が時間だったので、昼食に鰻で有名な日本料理の老舗菊屋さんへ行った。

 
 友人や本社から出張してきたアメリカ人の上司と訪れたり、会社のイベントでお世話になったりした懐かしいお店です。このお店をご存知のトラベラー各位も多数いらっしゃるのではと思います。次回は夕方にお邪魔して白焼きとお酒で始めてゆっくり過ごさせていただこうと思っています。


 懐かしいお店で昼食を美味しくいただいた後で、ご無沙汰している間も季節のご挨拶や新しいストーリーが載る度に現在もお知らせを続けている女将さんと、会計を済ませた後の昼食時の大変混雑した店内で、立ち話ではあったが近況を大急ぎで話した。
 かつてとても迷惑をかけ、大変可愛がっていただいたアメリカ人女性の上司(その女将さんとは今でも大の仲良し。「手作り」に登場しています。素敵な方です。)の話には懐かしくて少々ウルッとしてしまった。親しいお店ではどこででも、食事が終わったら立ち話程度の言葉を交わし、近々の再訪を告げてさっと立ち去る。長っ尻は粋ではないという感覚が私の中に染み込んでいるので、特に混んでいるときはそうしている。菊屋さんでも女将さんと近々の再訪を約束してサッとお店を出て新勝寺へ向かった。


観光バスが何台も駐車出来るほど広い駐車場を背中にしてこの総門を撮りました。
メインテナンス中でした。ちなみに菊屋さんと京成成田駅は左手の方向です。新勝寺は中に入らず今回はここまで。


 新勝寺の中に入ったのは、恐らくあのジョンとその相棒のジョセフ(「再会・2」に登場)を案内したときと、その後会社としての年末の挨拶で社務所を訪れて以来だ。
 広大な敷地の中には見る価値のあるものがたくさんある。今回は思い立って来ただけなので、再訪の際は見所と歴史を少し調べておこうと思った。
新勝寺の中には我が一族に縁のあるものがあるとのことなので、情報を収集してここも近々再訪するつもりである。
 成田観光館にも立ち寄ってみた。”PAVILION” と唄っているだけあって、建物の中ではいろいろな催し物が用意されているようだった。もちろんツーリスト・インフォメーションでもある。成田に関するパンフレットを幾つかいただいた。
 「お宅訪問」などに登場している当時の同僚リチャードの娘のヘイリーちゃんへのお土産に、箸使いを練習出来るようにと躾箸を買った藤倉商店さんに寄りつつ、空港内に開店したトラベラーズファクトリーへ行くために再び京成成田駅を目指した。


あくまでも記憶に残っていた状態との比較ですが、ここは以前に比べてかなりインターナショナルになった気がしました。


配布物も以前と比べて垢抜けた気がしました。


竹細工、木工品、籐製品がたくさんあり、トラベラー各位にとっては散財必至な藤倉商店さんです。
この外観の写真を撮らせていただきウェブに載せる許可を気持よく頂きました。



 京成成田駅まで戻る途中で、ちょっとだけ横道に逸れて昔の面影を探ってみた。
歩くより車で通ることが多かったその横道にあるこの赤いポストの傍で思わず立ち止まった。この古い赤いポストが何だか “久し振りじゃん!”と私に言ってくれているように思えた。記憶にある昔の面影が残っている通りによく溶け込んだこのポストに投函したことも、昔からここにあったことも、記憶にはなかった。しかし、自然と歩みを止めて、しばらく眺めて写真に収めたということは、このポストのほうが何度も通り過ぎた私のことを覚えてくれていて、呼び止められたような気がしたからだろう。


見かけなくなりましたね、この形のポスト。昔の面影が残っている通りに溶け込んでいて、本当にいい味を出していました。
日本中で徐々に撤去されていったこのポストを、入手出来るなら自宅の郵便受けとして欲しいと思ったのは私だけではないはず(笑)。



 再び京成電車に乗り空港を目指した。トラベラーズファクトリーを訪れ、スノードームと絵葉書、この遠出を記録するためのリフィルを購入した。かつてターミナルは一つで、北ウィングか南ウィングのどちらに自分の利用する航空会社のチェックインカウンターがあるのかを知っておく必要があった。仕事では「空港にて・1」に書いたようなことも経験した。私にとって成田空港といえば第1ターミナルだった。第2ターミナルが出来た辺りから徐々に第1ターミナルの様子も変わっていった。そんな第1ターミナルにまさかトラベラーズファクトリーが出来るなんて夢にも思わなかった。時間の経過と時代の変化を知った気がした。空港内ではかつての同僚とは一人もすれ違わなかった。かつての同僚達の姿も約13年前のまま記憶に残っているので、すれ違わなくて却ってよかったと思った。
 三度京成電車に載って帰路に就いた。自宅の最寄りの駅までは一眠り出来る距離だが、気が付くと眠ることもなく電車の中でこの成田への遠出を振り返っていた。決して自分の所為で好きだった仕事を離れた訳ではなかったのだから、何も気にすることはなく、気兼ねなくいつでも好きなときに成田を訪れることは出来た。しかし、決して行かなかった。言葉に出来ないほど複雑なものが自分の中にたくさんあり、それらが私を成田から遠ざけていたのだ。
 今でも季節のご挨拶は欠かしていないとはいえ、お世話になった方々、親しくしていた方々と実際にお会いすることなくご無沙汰してしまっていることもその複雑なものの所為だ。今回この遠出のことを後から知って、近くまで来ていたのに水臭いと私のことを叱るであろう方々は大勢いらっしゃる。
 帰宅してトラベラーズファクトリーで入手したスノードームを手に取って振ってみた。ドームの中でパラパラと舞い降りる雪の一つ一つがドームの底にゆっくりと着地して行くのを見て、私の中の成田に対するわだかまりのようなものもこのようにゆっくりと一つ一つ私の中に溜まってきたように思えた。そして、何と些細なものなのだろうと思った。
 今度はそのスノードームの底を上に向けてみた。雪がゆっくりと、綺麗にガラスの中で舞い始めた。わだかまりが少しずつ、ゆっくりと散っていくように見えた。
 旅の神様がトラベラーズファクトリーを切っ掛けにして、長い時間私の中にあった成田に対するその複雑なものを解し始めてくれたのかもしれない。


このスノードームは、空港のトラベラーズファクトリーの “訪れた証” になったばかりではなく、私の中に長い間存在していた成田に対する複雑な思いを和らげてくれました。
このスノードームは、手に取ったトラベラーの数と同じ数の様々なストーリーを導き出すものになると思います。



追記:
成田空港内に出来たトラベラーズファクトリーへ行って来ました。
中目黒との違いはコーヒーを飲むスペースがないだけで、限られたスペースをこれ以上無理というくらいに有効に効率よく使っていました。
これはトラベラーズノートをご存知ない方でも旅好きなら時間を忘れてしまうスペースではないでしょうか。来店記念とカスタマイズ用にスタンプを捺せる一角も店内にはあり、旅先とトラベラーズファクトリーを上手く融合させていました。
成田を少々観光し、空港のトラベラーズファクトリーに寄るというのはちょっとした小旅行になると思います。



 
本当に旅心満載の場所でした。今回の遠出はこのリフィルに記録しています。
トラベラー各位も成田観光も兼ねて是非一度足を運んではいかがでしょうか。