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『パブでちょっと・・・』

『パブでちょっと・・・』

2017/02:STORY
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 トラベラーとして大変遅ればせながら下川裕治さんの著書を読んだ話を2015年に「泊まるなら・・・(2)」に書いた。下川さんと私の旅のスタイルはかなり異なるので、その存在は存じ上げていても著書とじっくり向き合うことはそれまでなかった。年齢も旅も重ねて視野が広がってくると、自分のスタイルとは異なる物事にいくらか歩み寄れるようになった。そして、異なるから面白いと思えるようになってきた。これはお酒が飲めるようになって食べものの嗜好が変わったりするのと恐らく似ているのではと思う。年齢とともに味覚や嗜好が変わりそれまで受け付けなかったものを受け入れられるようになるのとも似ている。
 初めて手に取った下川さんの著書『週末台湾でちょっと一息』をきっかけに『週末シリーズ』を読み始め、新しい本が出る度に開催されるイベントに時間が許す限り出掛けて行くようになった。イベントは都内の西荻窪にある“のまど”という名の旅の本に特化した書店で行われることが多い。“にしおぎ”(西荻窪の通称)という土地は私が住んでいる東京の東端から見ると新宿の先になるので、出掛けて行くとなるとちょっとした遠出である。下川さんの本のイベントへ行くことは私にとっては毎回ちょっとした遠出であり旅となるのだ。イベントにいらっしゃるのは、下川さんのファンであるのはもちろんだが、旅好きの方がほとんどだろうからトラベラーの集まるところへ旅して行く気分になる。自ら進んで訪れることはないアジアのゲストハウスなどは恐らくこのような雰囲気なのではないだろうか・・・と思ってしまうのは想像力が逞し過ぎるだろうか。
 毎回イベントの後で希望者は著書にサインをしていただける。サインを書いていただいている時間はちょっとしたお話タイムとなる。何回目かに参加したイベントで持って行った著書にサインをいただきながら、自分も素人ながら旅の話を書いていることをお話した。思い起こすと冷汗ものだがそれは初回で初対面のときだった気がしないでもない・・・私の性格からして。それから新しい話が掲載される度にご連絡させていただくようになった。下川さんは切れ間なく続く旅と執筆の合間に私が書いたものを読んでいただいているようだ。



これが初めて手に取った下川さんの著書です。慣れ親しんだ台湾の別の歩き方を知った一冊でした。帯もまた上手いです(笑)。
自分の好きなところを他の人はどのように歩いているのだろうという視点で旅行記を手に取ると新たな発見があります。




続けてどんどん読んでしまった『週末シリーズ』です。
すべてサイン入りです。あと一冊読めばコンプリートです。
未読の方は自分のお好きな場所、詳しい場所の話から読むのも一興です。



 あと数日で2016年も暮れようとしていた年末の一日、下川さんとお酒を飲む機会に恵まれた。イベントの終わりがけの立ち話やメールでのやりとりばかりなので、一度お会いしてお話をということから決まった機会だった。下川さんの著書やイベントで拝見するスライドや動画ではビールをお飲みになるシーンがよく出てくるので、私が思うにギネスを日本一美味しく飲ませてくれる御茶ノ水のSPITFIREにご案内した。SPITFIREは以前「旅先で食べたもの・4」「はしご酒」に書いた私の行きつけの一軒である。
 このお店は少々分かり辛いところに位置しているので、初めての方をご案内する際は最寄りの駅で待ち合わせをしてから向かうことにしている。流石といっては語弊があるかもしれないが、トラベラーでいらっしゃる下川さんはお店の住所を差し上げただけで特に迷われたご様子もなくいらっしゃった。
 美味しいギネスを飲みながら、直近の旅のこと、これから出る本のこと、
そのときほぼ完成していた私の前作「旅先でも」に書いたICカード乗車券の話から香港のことなどを店内に他に客がいなかったのでお店を貸し切りの状態で下川さんとじっくりお話をすることができた。そんなひとときを過ごしている自分を客観的に見たときに、私よりもずっと長いこと下川さんの著書を熱心に読んでファンでいらっしゃる方々に少々申し訳なく思った。
 楽しいひとときはあっという間に終わり、お店の外で下川さんをお見送りした。見えなくなるまで追ったパソコンが入った重そうなバッグを背負った後ろ姿にやはりトラベラーだなと感じさせるものが漂っていた。
 年が明けて下川さんからメールをいただいた。インドネシアのスラバヤからだった。現地でノンアルコールのギネスを召し上がったそうだ。またスケジュールが合えば、ノンアルコールではなくしっかりした生のギネスをご一緒させていただきながらその旅のお話を伺いたいと思った。
 気を使って我々の会話に入って来なかった下川さんのファンでその店のオーナーでありバーテンダーのB氏にもそのときは会話に加わって貰おうと思っている。自分が熱心に読んでいた本の著者が店に来たのは初めてだと目を輝かせて感激していたB氏も下川さんにお聞きしたいことやお話したいことがたくさんあることだろう。
 オーナーが旅先で出逢って気に入ってしまい自分で始めてしまったパブで伝説のトラベラーとの次回の酒席での酒量は、きっと旅の話が弾んでしまい“ちょっと・・・”では済まなくなるだろう。


追記:
1.SPITFIREは現在お店のホームページを閉鎖しています。興味のある方はグルメ系のサイトから場所などをチェックして下さい。ギネスが好き・英国のパブが好きな方には満足の行くお店だと思います。
私は10年以上通っています。オーナーもトラベラーズノートのユーザーです。


2.そのSPITFIREの店主が熱心に読んだという下川さんの『12万円で世界を歩く』(朝日文庫刊)。私も大変遅ればせながら拝読しました。
これは2017年1月に都内で購入したものですが、奥付を見ると初版は何と1997年。私の手元にあるこの本は15刷です。この文庫の前に単行本があったはずですからどれだけロングセラーなんだろうと思いました。今から30年近く前の話ですが、下川さんの旅のスタイルが現在も変わっていないので全く古くは感じず、私にとってはいつもの下川さんの本でした。




3. 旅の本屋のまどさんに関しては以下URLからどうぞ。
トラベラー各位にとってはいまさらかも知れませんが(苦笑)。
訪れればずっと探している旅の本が見つかるかもしれません。
西荻窪は散歩してみても面白いと思います。
ここにリンクを載せさせていただくにあたり、店長の川田さんにご快諾いただきました。
http://www.nomad-books.co.jp