TRAVELER'S notebook Users Posts(2007-2023)
『泊まるなら・・・(2)』

『泊まるなら・・・(2)』

2015/11:STORY
Hide

 トラベラーとしては大変遅ればせながら下川裕治さんの著書を最近初めて読んだ。切っ掛けは新聞の書評の下にあった「週末台湾でちょっと一息」(朝日文庫刊)という下川さんの著書の広告だった。下川さんが台湾?と私の中ではちょっと衝撃だった。旅の書物を手に取るようになった学生の頃から下川さんというと、“タイ”と“バックパッカー”というイメージがあり、自分の旅のスタイルとは異なるということから著書は手には取っても精々立ち読みをするくらいだった。自分の中でタイのイメージが強い下川さんがお書きになった台湾の本が気になり書店に走った。こういう歩き方、街の見方もあるのかと感心しつつその本を読了してしまった。
間を空けずに次は香港・マカオ編の「週末香港・マカオでちょっとエキゾチック」(朝日文庫刊)、韓国編の「週末ソウルでちょっとホッコリ」(朝日文庫刊)と続けて読んだ。現在はベトナム編の「週末ベトナムでちょっと一服」(朝日文庫刊)をほぼ読了しつつある。実際に訪れたことがあり、自分の足で歩いたことがある土地に関する他のトラベラーの足跡を読むのは興味深くて面白い。そこで過去の旅で忘れていたことを思い出したり、次の旅のヒントを得たりする。
 「深夜特急」のときの沢木耕太郎さんのように、下川さんも旅先では宿探しに時間を割く。その宿の探し方にはルールがある。どの旅先でも私が宿泊先の選択肢に入れることはない、その存在すらよく知らなかった宿泊施設ばかりなのでとても興味深かった。
 「訪れた証・4」に書いた「旅はゲストルーム 測って描いたホテルの部屋たち」(光文社知恵の森文庫刊)の著者である浦一也先生の宿の探し方にも独自のルールがあるはずである。最近ご無沙汰してしまっている浦先生の著書からは今まで考えも及ばなかったホテルの楽しみ方や見方を教わった。旅先での宿探しはその探し方も含めてトラベラーの数だけルールやこだわりがあるのではないかと思う。
 2014年10月に大分への旅を計画したときはHOTEL FORZAに是非宿泊したいと思った。このホテルを知ったのは最近のホテル事情を知ろうと思って当時読んだ「ホテルに騙されるな!プロが教える絶対失敗しない選び方」(瀧澤信秋著 光文社新書)という新書だった。旅心をそそられるような内容ではなかったが、最近のホテル事情が掴めた一冊だった。
その本でその存在を知り、インターネットでそのホテルを調べたところ、宿泊してみたくなったのだ。九州のみでしか展開していないという点も興味深かった。
 予約を入れる段階で希望日は満室。対応してくれた予約課の方にどうしても宿泊したい旨を伝えて毎日同じ時間に予約課に電話を入れることを続けた三日目に予約が取れた。


ホテルの外観の写真も撮りましたが、載せるのはこの1枚だけにします。
どんなホテルかインターネットで調べる前に、トラベラー各位にはイメージを膨らませてみていただけたらと思います。



HOTEL FORZAはビジネスホテル的な宿泊料金を設定しているが、ビジネスホテル特有の必要最小限的な設備やサービスから上手に“ビジネスホテル臭さ”を抜いたホテルだった。お洒落か否かの今日の基準は女性客が一人でもしくは何人かで泊まったとして違和感がないか・・・なんだろうと思うが、このホテルにその違和感はないと感じた。室内はとても清潔で、最近では必須アイテムなのか空気清浄機まで置いてあった。




未使用で持ち帰ったアメニティの一部です。
どこか何とか良品を思わせるようなシンプルさと清潔感が感じられました。
これらのアメニティからどんな室内か想像を膨らませてみていただけたらと思います。



 所謂ビジネスホテルに初めて宿泊したのは2002年のサッカーのワールドカップのときだった。宿泊がビジネスホテルだったのは札幌、埼玉、大阪、大分、横浜だった。航空会社に勤めていたころの出張先での宿泊先は世界的にチェーン展開しているところかガイドブックに載っているホテルばかりだった。札幌で初めて自分に充てがわれたビジネスホテルの部屋に入ったときにはあまりの狭さに驚いた。スーツケースを拡げたままにしておけるスペースがなく苦慮した。バスタブとシャワールームが別々のバスルームなんて、きっとこのホテルの設計者は想像もつかないのだろうと思った。清潔なのがせめてもの救いだった。大分と埼玉のホテルは酷く、どちらも素足で部屋の中を歩くことが憚られるほど絨毯が汚れていた。室内には確かスリッパもなく、洗面所へは靴を履いて行った。部屋も暗くて狭かった。名前すら忘れてしまったその埼玉のビジネスホテルは二泊の予定だったが、我慢出来ず一泊は都内の自宅へ帰った。
 大分では計十日ほどその名前も室内の景色も忘れることが出来ないビジネスホテルに宿泊しなければならず、長丁場だった仕事以上にそこに宿泊することが辛かった。今でも大分と聞くとその狭くて汚かったホテルの部屋が思い出される。大分イコール〇〇ホテル・・・といったところだろうか。
 HOTEL FORZAに一歩足を踏み入れたときに、ここは大丈夫だなと思った。一歩部屋へ入ったときには、いつになるか分からないが、次回の大分もまたここに滞在しようとすぐに思った。ワールドカップのときにこのホテルがあり、ここに滞在させてもらえたら大分に対する自分の中の印象は大きく変わっただろう。HOTEL FORZAは九州でのみ展開されている。九州の他の都市に滞在する際はその有無を真っ先にチェックすることになるだろう。
 LCCも就航地を特化して展開しているが、あるクラスのホテルも地方発から展開している時代になっているのかもしれない。LCCとその土地に特化した、もしくはその土地から展開しているホテルという組み合わせは我々トラベラーにとって新たな選択肢だ。
 貯まっているマイレージの有効期限を気にしなければならない時期が再びやってきた。今ではそのマイレージはLCCにも使えるとのことなので、LCCで行くことが出来るかなりご無沙汰している土地への旅を計画してみようと思っている。調べるのはこれからだが、その土地から展開しているホテルがあればそこへの宿泊を計画しようと思っている。
 大分で友人との約12年振りの再会と会食を終えてHOTEL FORZAへ帰館し、一人で改めて繁華街を目指した。帰館したときとは反対側の道へ出て、信号待ちをしながら辺りを見回したその瞬間ハッとして固まってしまった。左手前方に初めての大分でその滞在に辛い思いをさせられてビジネスホテルが見えたのだ。思い出深くて忘れることができないビジネスホテルとも約12年振りに再会出来るなんて思わなかった。まさかこんな形で・・・。そのビジネスホテルからも再訪を祝されているようにも思えたが、“おまえ、まだいたのかよ〜。”という気持ちになって直視できなかった。
両ホテルを挟んだ一本の道が今まで自分の中にあった大分のイメージとこれからの大分のイメージの境目のように思えた。