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『はしご酒』

『はしご酒』

2016/08:STORY
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 この話の仕上げにかかったところで関東地方は梅雨が明けた。梅雨明けが宣言される前に数日雨が降ったが梅雨の雨ではなく、その雨は普通の雨だった気がする。この時期酒呑みにとっては気温の上昇とともにビールが飲みたいと思う頻度も上がるのではないだろうか。
 都内にある行きつけの英国風パブは本場のパブよろしく飲食代のやり取りはキャッシュ・オン・デリバリーだ。カウンターに座り目の前にキャッシュを置いておくと注文した分だけ差し引いてくれるので、その一角はパブではなく、キャッシュ・オン・デリバリーのバーになる。そこへは必ずと言っていいほど一人で訪れるのでカウンターに落ち着くことになる。
 一頻り飲んでマスターと会話して引き上げる際に、目の前に残った小銭が適当な額の際はチップとして置いてくる。額が半端な際はある程度整えてから置いてくる。これはキャッシュ・オン・デリバリーのバーなら世界中どこで飲んでもやっていることだ。こういう場面もあるので酒場は基本的に一人で行くものだと思っている。都内でパブの看板を掲げているところでチップを置いて立ち去ったら、“お忘れになっています”と置いてきたチップを手に汗をかきながら必死に後を追いかけられたことが二度あった。   
 その行きつけのパブである程度飲んでいい気分になっていた一日、カウンターの右のほうから“pub crawl” という言葉が聞こえてきた。はしご酒と同じ意味だが、これがアメリカだとトラベラー各位にも馴染みがあるであろう”bar hopping”になるようだ。三か国表現は違うがそれぞれ体力が要りそうで確実に酔いが回りそうな共通点が面白い。
 “pub crawl” という言葉を発したのは、カウンターの私の指定席から見て右端で私と同じく一人で飲んでいたそのお店の常連だった。顔が合えば目礼が精々の人だった。パブやビールに関する知識は相当らしいが、その方と出くわすとカウンターで飲んでチップを綺麗に切れるようになってから蘊蓄をたれやがれと飲みながらお腹の中で結構大声で呟いてしまう。そう、旅先で特に同じ国から来ている不粋な奴に出逢ったときと同じ状況である。
 2012年に主にロンドンだったがイギリスを20年振りに訪れた話はいくつか書いたが、その再訪の際に耳の奥に残っていた“pub crawl”をやった。滞在三日目にその旅に同行した母と大英博物館を観た後でチャイナタウンへ行って昼食。そこで何を食べたかは「Chinatown(旅先で食べたもの・5)」に書いた。昼食後母と別行動することとし、“pub crawl” 開始。ピカデリー・サーカスにあるパブで先ずエールを一杯。ブランド名は失念(苦笑)。その旅を記録したトラベラーズノートを見ると、記録する時点でとっくに失念していた。

 
スタートの1パイント。右の写真にあるサーバーのどれかだったと思います(苦笑)。


 二軒目はホテルの近くのパブへ。ここで1987年に初めてコルチェスターのパブで飲んでから気に入っているヨークシャーのJOHN SMITH’Sと再会出来たときは嬉しかった。

 
約20年振りに再会出来たJOHN SMITH’S。右の写真は少々見辛いですがサーバーです。
出逢ったときはやや温めだった記憶がありましたが、結構キンキンに冷えていました。



 この二軒目の店では店内のテレビでマンチェスター・ユナイテッドの試合が流れていて、当時在籍していた日本代表の香川真司がゴールを決めるのを観た。
 三軒目は一軒目もしくは二軒目で入手したリスト兼マップで見つけたところへ徒歩で行った。

 

 
これが手に入れたリスト兼マップ。胸のポケットに入る大きさのものを拡げるとこうなります。
リストを裏返すと地図になっています。
Taylor Walkerというのはロンドンのパブをチェーンのようにまとめているところのようです。
そのグループのロンドン内のパブが94軒、ロンドン以外にあるパブが22軒リストされています。地図はロンドンにある94軒の位置を地下鉄の路線に沿って記したものです。興味のあるところへは地図にある駅で降りてリストの住所で探せ・・・というものなのでしょう。
呑兵衛にとっては記憶を失った翌朝に前夜の足跡を辿るのに使えるかも知れません(笑)。



 三軒目だったが千鳥足寸前ではなかったと思う。そこでは逆に日本で出逢って何度も飲んだLONDON PRIDEをハーフパイント。これを本場ロンドンで飲むのはこのとき初めてだった。


流石に三軒目だったのでハーフパイントにしたLONDON PRIDE。
テーブルに敷かれていた紙のランチョンマットがLONDON PRIDEだったのは偶然でした。



 四軒目もリスト兼マップを頼りに訪れてハーフパイントを一杯。ここで飲んだものもエールだったと思うがブランド名は失念(苦笑)。
ここでしか飲めないエールをハーフパイントで・・・くらいは言ったかもしれない。


恐らくLONDON PRIDEかSPITFIREだったかったかと・・・。


 五軒目は翌日「再会・4」のコルチェスター再訪を終えてロンドンへ戻って来てからピカデリー・サーカスの今はもう閉店してしまったらしい三越の近くのパブへ。ここで飲んだギネスと食べたフィッシュ&チップスについては「旅先で食べたもの・8」で書いて写真も載せてあるので是非チェックしていただきたい。日本でGuinnessを美味しく飲ませるのは数店舗しかない。先述のパブはその筆頭である。約20年振りにイギリスで飲んだギネスは思いのほか冷えていた。ギネスにしてはキンキンに冷やしているなと感じるくらい冷えていた。ギネスの本場アイルランドではどうなのだろう。
 母と合流し夕食後に母と共に六軒目へ。もちろん母にとってはその旅で初めてのパブである。ここでは、これも日本で出逢って何度も飲んだSPITFIREを現地で初めて飲んだ。


このサーバーの写真は先述のパブのオーナーにも差し上げました。


 振り返ると短い滞在期間で二日に渡り計六軒も “pub crawl” をしていて少々驚いてしまった。20数年前に比べてロンドンのパブは小綺麗になったように思った。店内もかなり明るくなった気がした。
この話を読んでイギリスのパブが恋しくなった方、行ってみたくなった方は意外に近くにあったりするので、散歩がてら見つけて欲しい。見つけた一軒がお気に入りの場所になり行きつけになったら最高だろう。
 先述のその都内のパブへ案内して欲しいと言っている酒呑みで気の置けない友人は少なくなく順番に案内している。近々一人案内する予定だ。そのパブから電車で二駅先にもう一軒お気に入りのパブがあり、同じくそこも案内して欲しいと言われている。“Pub Crawl” 決定である。
トラベラー各位、この夏もどうぞ美味しいビールを。



追記・1:
100作目以降は写真を少なめにしようと思って書いていますが、はしご酒の臨場感を出すにはこれだけの写真が必要だと思いました。
訪れた一軒のバックバーに目をやって、JACK DANIEL’S は流石だなと思いました。きっと業務用にラベルを逆さまに貼ったボトルを用意しているのだと思います。




追記・2:
PAN AMのペンホルダーは写真のようにしてパブに行く際に使うマネークリップとして使っています。
トラベラーズノートに付けてしまうとロゴの存在感が強過ぎる感じがするのでこのように使うことにしました。

 


追記・3:
トラベラー各位で飲兵衛の方に本を一冊お薦めします。
映画ファンの方ならそのお名前をご存知かと思いますが、川本三郎さんの「旅先でビール」(潮出版社)です。
私はこの本を読むとなめろうかアジフライでビールが飲みたくなります。
この本を片手に昼下がりの駅前食堂で何かおかずをアテにビールなんていいですよ。