

『本を読んで・4』
今から約二年前の一日、書店の旅の本のコーナーで一冊の本と出逢った。平積みされていたその文庫本のタイトルより先にカバーの絵が目に留まった。手に取って改めてタイトルを見てみると「ようこそポルトガル食堂へ」とあった。旅人の、食いしん坊の、そして本好きの嗅覚からの知らせに従いその本を買った。ポルトガルへ行ったことがないとかどんな食べものがあるのかなんてことを考えたのは、その本を携えて店を出てしばらくたってからだった。
帰りの電車の中で落ち着いてくると、自分の中にあるポルトガルがいろいろと頭の中に浮かんできた。マカオで食べて美味しかったタルト、マカオで大ハズレだったポルトガル料理・・・そのときのことは「私の『旅のなかの旅』」で書いた。そんなことが学校で習った鉄砲伝来や南蛮貿易などより先に浮かんできた。
「ようこそポルトガル食堂へ」は基本的に食べもの(ポルトガル料理)の本であり、旅の本であるが、即買いしたその文庫本は挿絵も写真もない文章のみの一冊だった。本文に出てくるカタカナで表記された料理やワインの名前も自分の無知の所為で少々発音し辛らかったが、そういった不自由が想像力を掻き立ててくれて面白く、あっという間に読み終えてしまった。面白く読んだことを早速SNSを通して友人達に知らせてこの本を薦めた。
本編に引き続いて読んだあとがきでこの本は元々写真付きの単行本で出たものを文庫化したものであることを知った。また、文庫版が文章のみなのは、“文庫本とは掌の中で想像力を働かせて読むもの”(素敵な表現だ)だからあえてそうしたということと、私がこの本を手に取るきっかけとなった素敵なイラストは、小池ふみさんというイラストレーターの方の作品であることも知った。
「ようこそポルトガル食堂へ」馬田草織著 幻冬舎文庫刊
これがイラストを一目見て手に取った文庫本です。
トラベラー各位どうですか? 手に取ってしまいますよね?
帯の文も刺激的ですね〜。帯を一読して手に取ってしまうトラベラーも多いのではと思います。
読んで面白かった本の著者に自分がその本をいかに楽しんだかを
伝えたくて何らかの形で著者に連絡をしたことがこれまで何度もあり、その様子をここに書いてきた。「訪れた証・4」で浦一也氏、「ぐるっと・・・」で西川治氏、「本を読んで・2」でJamie Ford氏など。ありがたいことに現在でも各氏とは交流させていただいている。トラベラー各位も各氏の作品を手に取ったことがあるかも知れない。
この「ようこそポルトガル食堂へ」の著者馬田草織さんにも大変不躾ながらご連絡を差し上げた後に交流させていただくようになった。馬田さんはポルトガル料理とポルトガルワインの美味しさ・素晴らしさを伝えるため御自身でイベントを主宰なさっている。イベントでは自らポルトガル料理を作り、合わせてポルトガルワインも紹介している。料理関係の雑誌にも頻繁に寄稿なさっている。著書や雑誌の記事、いただく情報などから私にとって未踏の地であるポルトガルの食べものとワインに興味が出てきた。基本的にアルコールはウィスキーや焼酎を好んで飲むが、この本に出逢ってから酒屋や輸入食品のお店に行くと、無意識のうちにワインのコーナーへ行き、ポルトガルワインを探すようになった。
手にしたいと思っていたが長いこと手に入れることが出来なかった単行本がこの2016年の春についに増刷された。入手してサッとページを繰ったときに、文庫で一度読んでいるとはいえ、時間をかけてじっくりこの本と向き合おうと思った。
これがその単行本です(産業出版センター刊)。
素敵な文章と綺麗な写真、有益な情報で一杯の丁寧に構成されている一冊です。
著者のこの本に対する愛情も伝わって来ます。
これ一冊携えて旅に出たくなるガイドブックでもあります。
7月のある週末、都内で行われた馬田さんのイベントに初めてお邪魔することが出来た。ご本人にお目にかかるのもそのときが初めてであった。何種類もあるポルトガルワインを赤・白ともに少量ずつ試しながら、馬田さんが作ったポルトガル料理をいただいた。ワインでは微発砲の白が気に入り、その日の暑さも手伝ってか、恐らく一人でボトル一本近くグイグイと飲んでしまった。自分で見つけて飲んでみたポルトガルワインとは一味も二味も違った感じがした。食べものではバカリャウ(干し鱈)のコロッケが気に入った。JR線に乗ってちょっとポルトガルへ行ってきた気分になれた。
携えて行った文庫本と単行本、それに「ポルトガルのごはんとおつまみ」(大和書房刊)というレシビ本に馬田さんは気持よくサインして下さった。添えて下さったメッセージを本によって変えて下さり感激した。
その後しばらくして、文章だけの文庫の一章を読み、同じ章を写真付きの単行本で再読する・・・これを一日仕事から帰ってゆっくり出来る時間に繰り返して少しずつ読み進めた。文章だけで得た自分のイメージと実物の写真を実際に目にしたときのギャップが面白かったし、至福の時間になった。同時に二冊読了したときには旅が終わってしまった寂しさに似たものを感じ、“この夏ポルトガルへ行って来ました”と言いたくなるような感覚が体内に残った。
文庫(左)でイメージを膨らませ単行本(右)で写真を見ながら同じ章を再読する・・・
この方法でこの本を楽しむことをトラベラー各位にはお薦めします。
トラベラーズファクトリーにもこの二冊が並んだら絵になるなぁ〜(笑)
この本に紹介されている都内にある一軒の“ポルトガル酒場”に過日行ってみた。場所はなんとここで何回か書いたあの英国風パブの目と鼻の先、徒歩数十秒の距離にあった。既に数回というべきかまだ数回というべきか、ワインの種類が豊富なのはもちろん料理がとても美味しい居心地が良いお店なので続けて訪れた。一日働いてピリピリした神経を落ち着かせてくれる雰囲気を持ったお店といえば様子が伝わるだろうか。忙しかった一週間が終わった金曜日や翌日の予定を気にする必要がない土曜日に行くにはいい一軒だ。ポルトガルからイギリスへ、もしくはイギリスからポルトガルへ、JRで行く“週末ヨーロッパ”をしばらく続けてしまいそうだ。
追記:自宅にも“ポルトガル”があったことに改めて気が付きました。
これは各位のところにも一つはあるのではないでしょうか。