TRAVELER'S notebook Users Posts(2007-2023)
『Chinatown(旅先で食べたもの・5)』

『Chinatown(旅先で食べたもの・5)』

2013/11:STORY
Hide

 1987年にイギリスを二度目に訪れたときに、ロンドンのチャイナタウンで初めて食事をした。イギリスで、ロンドンで、中華料理を食べたのはそのときが初めてだった。その二度目のイギリス訪問は語学研修だったので、初めてチャイナタウンで中華料理を食べたそのときは、確か同じ研修に参加していた同級生等がいたはずだ。
  ランチに入ったお店のスープ麺の不味さといったらなかった。スープは温く、具として入っていたチキンにはまだ血が残っていたのを今でもはっきりと覚えている。
 それから約五年後、就職して二年目に取った有給休暇で同僚のKとロンドンへ行った。そのときの話の一部は以前「Timetable」に書いたので、ご笑覧いただきたい。
 その同僚Kは学生時代にイギリスを一人旅したらしく、ロンドンのチャイナタウンの中華料理店は美味いと力説していた。Kとともに訪れたロンドンで、Kの思い出の店だという一軒に入った。スープ麺を頼んだが、相変わらず温く、完食は不可能だった。そのお店は私が嫌な思いをしたお店と同じお店だったかもしれない。完食しなかった私にKは、お前は贅沢に育ったからだ等さんざん非難を浴びせたが、私はそんなことはお構いなしに、ホテルに帰る途中ピザハットでピザをテイクアウトした。
 翌年Kは後輩のYとともに再びロンドンを訪れた。私とも親しかったYをロンドン滞在時に同じ店に連れて行って食事をした。美味いと言わせて、私を非難するつもりだったらしい。
しかし、Yはその店の料理を一口食べただけで、食事を止めてしまったとのことだった。がっかりしたKはホテルへの帰り道、Yに「お腹が空いているならピザでもテイクアウトすれば・・・?」と言ったところ、Yが「いいえ、お腹一杯です」と答えたらしく、その気遣いにさらにガッカリしたそうだ。
 そんな思い出のあるチャイナタウンへ、母とともに去年大英博物館に行った後で昼食に立ち寄った。途中道に迷いそうになり、現地の方と思しき方に道を尋ねた。親切に教えて下さりしばらく歩を進めると、その方が駆け寄って来た。どうも間違えて教えて下さったらしく、正しい道順を改めて教えて下さった。旅先ならではのそんな一瞬を過ごしたあとで、チャイナタウンに辿り着いた。以前と比べて随分変わったなというのが第一印象だった。人は多かったが、何だか全体的にこじんまりしたように見え、加えて少々小綺麗になっていた気がした。
 旅先でのローカルフードが楽しみで、日本食が恋しくなることがほとんどない私と母なのだか、何故かその時は箸を使って食べるものを目指していた。かなり美味しくなったといわれるようになったイギリスの食事に、身体はまだまだだと反応していたのかもしれない。
 チャイナタウンの中を少々歩き、良さそうだと思った一軒に入った。
私は牛肉麺、母は焼きそばを頼んで食べた。ビックリするほど美味ではなかったが美味しかった。ビックリしたのはあの20数年前のチャイナタウンの味からしたら雲泥の差だったことだ。どれほど驚いたかというと、完食していたことだ。母も1990年代初頭に今は亡き父とロンドンを訪れたときにチャイナタウンで食事をして、いい思い出がなかっただけに驚いていたようだ。


 
左は私が食べた牛肉麺。あの独特の香りのある台湾のものを想像していましたが、
香りはなく、あっさりしていました。美味しかったです。
右は母が食べた焼きそばです。シンプルな味付けで美味しかったです。



 ロンドンの中華がある程度美味しくなったのは、どうも1997年の香港返還が影響しているようだ。腕のいい料理人達はほとんどカナダとイギリスへ行ってしまったという話を聞いたことがある。
 いい意味で驚いたチャイナタウンで食事をした後で、前述のかつての同僚Kの別の話を思い出した。我々の同僚であるSちゃんと結婚したKは新婚旅行でエジプトへ行き、帰りにロンドンに寄ったそうだ。ロンドンで食事の時間になり何を食べに行こうかとなったときに、Sちゃんはこう言ったそうだ。「何でもいいけど、T君(私の本名)が不味いと言ったところだけは止めてね。」
 メールでのやり取りは少々あるが、かなりご無沙汰しているK夫妻に近々会って、ロンドンのあのチャイナタウンがいかに美味しくなったかを話そうと思う。いや、美味しくなったと伝える前に、食べられるレベルになった・・・と伝えるほうが彼らには伝わるかな。