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『里帰り』

『里帰り』

2014/02:STORY
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 毎月ストーリーが掲載されると、ご笑覧いただいた後で必ずコメントを送って下さる方が何人もいらっしゃいます。大変有難く感謝しています。
昨年末に掲載していただいたパスポートの話「デビュー40周年」を読んで下さった方からコメントとともに素敵なお話をいただいたので、ここでトラベラー各位にご紹介いたします。
以下抜粋です。

・・・父はサラリーマン現役時代、製薬会社で台湾関係の仕事をしていました。
中国との国交を回復した時、日本は中国に擦り寄った為、台湾との交流が表向きなくなってしまいました。それでも、薬は人道的にも差別なく輸出することが許され、父は中国と台湾の両方の担当になりました。その時の外務省の対応が粋で、中国に行く時用と台湾に行く時用の2冊のパスポートを用意してくれたのです。他の製薬会社は台湾に子会社を作っていたので、中国には入れなかったそうなので、2冊のパスポートを使い分けて両方に行っていたのは、ごく少数の人間だと思われます。台湾の対日感情は悪化していると言われていて、その頃は台湾に行く人が殆どいなかったのですが、行くとみんなから「よく来た、よく来た」と大歓迎されたそうです。
Hideさんも台湾人のお友達がたくさんいらっしゃるから、容易に想像がつくでしょう・・・。

 このお話を読んで、我が国の役人も昔は捨てたものじゃなかったんだなと思いました。
それから、台湾の人達の心根の優しさも昔から変わらないのだなと思いました。私は何度も台北と高雄へ行きましたが、今まで一度も嫌な思いをしたことがないんです。

・・・では、ここからは今回のストーリー「里帰り」を。

 ニューヨーク在住の従姉が年末年始の休暇を過ごすために娘と共に帰国した。娘に振袖を着せて写真館で日本式に成人式の写真を撮ったのが去年だったから、この再会にあれから1年経ったことを知らされ、時の過ぎ行くその早さにため息が出た。さて、今回はどこを案内しようかといろいろと考えた。我が家お気に入りの都内にある鮨屋は去年の五月に法事で単身帰国した従姉には案内済みだし・・・。今回はニューヨーカー二人からリクエストを貰った。リクエストは去年行かれなかった、私のストーリーに度々登場する麻生珈琲(「距離・2」 「いつかそこへ・3」)。と我が家お気に入りで去年二人を案内したときに食事が美味しかったと喜んでくれた居酒屋だった。
 年の瀬も押し迫ったある一日の夜、ニューヨーカー二人とその従姉の妹の娘達二人も加わって麻生珈琲へ行った。ニューヨークに居るなら近所にいくらでもあるのであろう時代の最先端を行っているカフェと違って、店内にジャズがかかっていて、コーヒーが美味しい昔ながらの雰囲気が残っている日本のカフェはニューヨーカー二人にとって新鮮だったようだ。
カフェの壁には「里帰りカップ」と呼ばれている一度日本を輸出等で出て行って帰って来たコーヒーカップが店内の壁に誂えてあるショーウインドーの中にいくつも飾られている。全てオーナーの麻生さんが長い時間を掛けて蒐集したものだ。別のところにこれらコーヒーカップの資料館を構えていらっしゃるが、ここもちょっとしたコーヒーカップの博物館である。海を渡って久々の里帰りを楽しんでいるニューヨーカー二人と、海を渡って日本に帰って来たコーヒーカップ達に囲まれたカフェで再会を楽しむなんて何だか素敵だなと思った。
 また、旅人でもあるオーナーの麻生さんがその従姉の娘にコーヒー豆を選ぶ際にいろいろと教えて下さったり、Facebookに載せる写真等を気持よく撮らせて下さったり、とてもいい時間だった。



ここが麻生珈琲さんです。用意しているコーヒーは全て自家焙煎で、ジャズが流れている店内で飲めます。私はお店でもいただきますが、自宅で飲むコーヒー豆もこちらで購入しています。


 年が明けて3日にリクエストを貰った居酒屋へ行った。ニューヨーカー二人に、ここの料理がお気に入りの叔父(正確には母の従弟)、母と私の5人で行った。従姉の娘は前回食べて気に入ったこのお店の名物である “ ネギトロ漁師寿し “ に再会出来てご満悦であった。” Fisherman Sushi “ と呼んでいて、ずっと食べたかったそうだ。もう一つのこのお店の名物 “ ネギワンタン “ も美味しそうに食べていた。それから、恐らく日本でしか味わえないアイスキャンディーのガリガリ君が一本丸ごと入った最近日本で流行っているというチューハイも楽しんでいた。
そのうち欧米でもウオッカにアイスキャンディーを入れて飲むのが流行ったりして・・・なんて思ってしまった。



これが従姉の娘が1年間ずっと再び食べたいと思っていたネギトロ漁師寿しです。
ご飯に予め醤油が絡めてあるので何もかけずにここまま食べます。美味しいです。



 
ネギワンタン(左)とガリガリ君が一本丸ごと入ったチューハイ(右)です。


 日本の居酒屋なので食べる際には箸を使う。普段の生活では圧倒的にナイフとフォークを使うことが多いであろう二人にはそこも新鮮だったのではと思った。
 面白いことにそこへ集った5人は皆んなインターナショナルである。ニューヨーク在住の二人(娘のほうは学生生活を現在ピッツバーグで送っている)を除くと、海外での滞在日数がトータルで一番長いのが叔父、訪れた国の数が一番多いのが母、飛行機に乗った回数がまだ辛うじて一番多いのが私であろう。叔父はずっと音楽プロデューサーをしているので、レコーディング等で一度海外へ出ると一月や二月の現地滞在はざらである。
スケジュールの都合でどうしても間に合わなくてニューヨークからパリまでコンコルドに乗った経験もあるくらいだ。母は主要な観光地はほぼ訪れてしまい、最近でロシアやカンボジアへツアーで行っている。私に関しては皆さんご存知の通りである。
 そんなインターナショナルな面々が集うのが、東京の東端からさらにひとつ川を越えた市川の商店街にある居酒屋だというのが何とも面白い。
叔父はマンハッタンに何軒かあった行きつけのラーメン屋を初めとした食事処の現在の所在を従姉に聞いたり、(そのほとんどが今はもうないようであった)、母は従姉の案内で行ったクイーンズにある初めてタイ料理って美味しいと思ったお店(現在は経営者が変わってしまったとか)の話や、数ヶ月前に行って来たロシアの話、従姉の娘は夏に行って来たイタリアとスペインの話をしていた。
私ももちろん去年唯一の旅だった鹿児島の話から今までの旅の話をいろいろと。地球儀がまるでルーレットのように回っているようだった。
 年末年始はお盆と同じで里帰りのシーズンである。同じ時期にこのメンツで集うのが二年続いたので今後も続きそうである。各々がまた旅をして、お土産話を持ち寄って1年後に集えたら、こんな素敵なことはない。
これは先祖と旅の神様が結託してメンバーを選択してセッティングしてくれた宴席ではないかと思わずにはいられない。