

『レコードジャケットに想いを馳せて』
「3,000円のベーグル」を食べた後で、リバプール・ストリート駅まで歩き、地下鉄に乗ってベイカー・ストリートまで行った。ベイカー・ストリートでジュビリー線に乗り換えて、一駅先のセント・ジョンズ・ウッドで地下鉄を降りた。ガイドブックの案内に従って駅から数分歩くと、そこに目指して来たものがあった。あのレコードジャケットで有名な横断歩道だ。
先に到着していた観光客達が何人も、行き交う車の流れが止まる一瞬のタイミングを捕まえて、あのレコードジャケットの真似を基本として記念写真を撮っていた。
そのレコードとは、The Beatlesの“Abbey Road” である。このレコードを買ったのは中学生の時だ。とても印象的なレコードジャケットだった。何故ポール・マッカートニーだけ裸足で煙草を持っているのか・・・とか、これは葬儀をモチーフにしていて、4人それぞれに役割がある・・・等の逸話の数々も、もちろん後追いだったが、そのレコードを手にした当時は様々な幻想を抱かせてくれた。それに、この横断歩道は実存するということだったし・・・。こういった何かに纏わる逸話のことを、最近は都市伝説というらしい。レコードの時代には、特にロックのレコードのジャケットには、ミュージシャンの無言のメッセージを反映したものが多く、後々語り継がれる逸話がそれぞれにあったように思う。
今でも大切に持っている中学生の時に買ったレコードと、この旅の前に買ったCDです。
レコードの帯に見える “STEREO”の文字が時代を感じさせます。
ビートルズ縁の地であるリバプールはロンドンから電車で片道約3時間の距離にあり、リバプール・ストリート駅はロンドン市内にある。リバプール・ストリート駅には地下鉄の駅も、ロンドン郊外へ行く電車の駅もある。どちらも“リバプール”と付くので “おやっ?”と思ったトラベラー各位はこれで合点がいっただろうか。
1987年に大学の語学研修でイギリスに一月滞在した時には、リバプールには行ったが、ロンドンにあるこの横断歩道は訪れなかった。
その時の話は以前「Day Tripper」という題で書いたので御一読いただきたい。
リバプールはロンドンから小旅行に値する距離にあるのに較べて、この横断歩道はロンドン近郊に居る限りいつでも来られる距離にあるので、そのうちにと思っているうちに、訪れるタイミングを逸したのだと思う。
レコードを手にしてから30年近く経って訪れた有名な横断歩道を目の前にし、実際に渡ったときは、何とも言えない気持ちになった。何とも言えない気持ちというのは、とうとう来ることが出来たかという気持ちと、行こうと思えばどこへでも行くことが出来てしまうのだという気持ちと、あっけなさに似たものが入り交じった気持ちだ。あの4人が実際に歩いたところを自らの足であるいたのだから、もちろん感慨深いものはあった。しかし、学生時代に訪れていたら、間違いなく何も考えることなく、大はしゃぎして気分が高揚しただけで終わったはずだ。
こうしてストーリーが書けるほど旅を重ねてきたので、積み重ねてきた経験がこのように冷静にさせたのだろう。
横断歩道の側の腰を下ろすには丁度良い外壁に座って(以下写真に見える人集りのように)、レコードジャケットの通りに写真を撮ろうとして何度も横断歩道を行き来している観光客達や、彼らのためにイライラしながら車を停めて撮影が一段落するのを待っているドライバー達を眺めていることに、旅をしていることを感じた。
ここをあの4人が並んで歩いたのです。
この写真は現在Facebookのカバー写真に使っています。
レコードジャケットのビートルズの4人を後ろから追うとすると、この角度になります。
レコードジャケットの通りなら、ジョージ・ハリスンの背中を見ることになる角度でしょうか。
横断歩道の目と鼻の先にあるアビー・ロード・スタジオです。
敷地内には入れないので、写真に収めるのはこれが精一杯でした。
有名なレコードのジャケットを撮影した実存する場所を、実際に訪れるというのは結構楽しい。
ロンドンには、Kinks, Pink Floyd, Oasis, David Bowie, Rolling Stones, 等の、ロックファンにはお馴染みのロックレコードのジャケットの撮影地になった場所が結構存在している。
そういう場所のみを周るツアーを自分で計画し、実行するのも一考だ。
トラベラーズノートのプロデューサー飯島淳彦さんも去年ロンドンを訪れた際にいくつか廻られたことを御自身のブログで“London Calling”というタイトルで書いていらした。
次はどこへ行ってみようか。
Deep Purple の “In Rock”のジャケットのモデルになった、アメリカの歴代大統領四人の彫像がある、アメリカのサウスダコダにあるラシュモア山が気になり始めている。これは実物を肉眼で観たい。あっ、レコードを持っていなかった。
でもCDとTシャツをもっているから、まあいいか・・・。
追記:
ポール・マッカートニーがこんなことをしています。
このライブCDのタイトルは “Paul is Live”。
このユーモアはやはりイギリス人だからなのか・・・。
どこが笑えるのかピンと来ない方は、お時間のあるときに調べてみていただきたい。すぐにお分かりになると思います。
今回のこのストーリーから遡ってビートルズに興味を持ち、その実在する横断歩道を訪れてみたくなったり、自分の好きなレコードのジャケットの撮影地に、国内外を問わず行ってみようと思った私より若い人達が一人でもいたら嬉しいなあ。