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『遠出・2』

『遠出・2』

2010/10:STORY
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 一日帰宅して郵便受けから取り出した郵便物の中にトラベラーズノートの京都でのイベントの案内があった。都内在住の僕に京都で行われるイベントの案内が来るなんてと思いつつ案内を見ているうちに行ってみようかと思い始めていた。行くのなら三連休初日の9月18日の土曜日に日帰りにしようと決めて、ギリギリまでいろいろと調整をした。行くとなれば京都は中学の修学旅行以来だ。交通手段もいろいろと考えた。手持ちのマイレージを使って大阪まで行き大阪から鉄道でとか都内から深夜バス等、なるべく安く行こうとすると時間がかかり日帰りは無理なことが分かった。宿泊してもいいのだが、そうなると宿泊費と飲食費で羽目を外してしまうのは明らかだったので、行くのなら今回は日帰りが第一条件になった。結局新幹線を利用することにした。インターネットでチケットを事前に予約して通勤時に受け取る等、国内旅行はほとんどしないので新鮮だった。思い起こせば新幹線に乗るのは、2002年にNFLの仕事で大阪へ行った時以来だった。(「On The Road ・2」参照)
 当日は残暑が厳しかったが天気に恵まれた。トートバッグに必要なものを入れて出掛けた。鉄道の旅の楽しみと言えばやはり駅弁。東京駅でいろいろ物色したが、お金を出せばいくらでも豪華なものがあることが分かった。普段の食事を考えても、飲み物も入れて1000円以内が妥当だろうと思った。そこで選んだのが崎陽軒のシュウマイ弁当だった。これなら飲み物も入れて1000円でお釣りが来た。
指定して購入した通路側の席に着いて間もなく、定刻に「のぞみ」は東京駅を出発した。日本の鉄道は時間に正確で車内はやはり清潔だった。三連休の初日だけあって、新横浜で周りに空席は無くなった。駅弁を楽しみ、本を読んでいるうちにあっという間に京都に着いてしまった。ホームに降りて「京都」と書いてある駅名の表示を携帯電話のカメラで撮った。東京を出る時に「東京」と書いてある表示を同じく携帯電話のカメラで撮って「出発(笑)。」とだけ書いたメールに写真を添えて友人達に送った。次は「到着(笑)」とだけ書いたメールに撮ったその写真を添えて送った。これで友人達は僕が東京からどこへ行ったか分かったはずだ。旅のライヴ感を伝えたいという思いといたずら心からこんなことをしてしまった。
 イベント会場へ行くには京都駅から地下鉄に乗る必要があった。普段使い慣れているSuicaで地下鉄の改札を通ろうとしたところ、自動改札機に音を立てながら拒絶された。JR使えねえ・・・と呟きながら切符を買いに戻った。中学の修学旅行以来の京都はこうして迎えてくれた。
 一度乗り換えて着いた最寄りの駅から会場までは途中迷いながら辿り着いた。迷っている途中に観た町並みと丁寧に道を教えてくださった方々の話す言葉のアクセントに京都にいることが実感できた。これで旅の気分がグッと盛り上がってきた。イベント会場に着き、中に入ると結構賑わっていた。トラベラーズノートのプロデューサー飯島淳彦氏の背中が見えたので、案内の葉書を手に「すみません、これはここでいいのですか?」とずっと考えていた“ボケ”をかました。振り向いた飯島氏の驚いた表情といったらなかった。時間もお金もかかったドッキリが成功して、何だか旅の目的が一つ達せられた気持ちになった。顔見知りのチームトラベラーズの方々を順番に驚かせ、少し話しをした。旅先で知った顔に再会できるのはいいものだ。会場は今までのイベントが行われた会場よりも広くて雰囲気のいい所で場内の賑わいは絶えることがなかった。この中に僕と同じように遠出をしてきた方々もいらっしゃるのかなと思いながら場内を見渡した。自分のトラベラーズノートを少々カスタマイズして、飯島氏にちょっとカフェ巡りをしてまた戻ってきますと告げて会場を出た。
 今回の京都の旅はこのイベントに参加することと、飯島氏がご自身のブログで薦めていたカフェを巡ることを目的にした。時間的に厳しいことが最初から分かっていたので、観光スポットは一切回らないと決めていた。飯島氏がブログに載せていた手書きの地図を自分でパソコンからプリントアウトしてきたものを片手に歩き始めた。迷いに迷って、京都ではこんなに細い道も路地というのかというほどの小道を入ったところにあるビルの2階にある「ELEPHANT FACTORY COFFEE」を最初に訪れた。足がはみ出してしまうほどの幅が狭くて急な階段を上り店内に入った。店内はほぼ満席。一席だけ空いていたカウンター席に通された。カフェというよりバーに向いているのではと思う店内は、天井が低く、そこにいた客ほぼ全員が読書をしていた。話をしているのはテーブル席にいる四人組みのみ。面白かったのは話もせずにそれぞれ本を読んでいるカップルが何組もいたことだ。コーヒーを飲む前にその独特な雰囲気に飲まれ、行きつけの市川にある麻生珈琲が恋しくなった。コーヒー代を払う時に、レジの傍にトラベラーズノートの今回のイベントの告知の葉書が置いてあった。スタッフの方に東京からこのイベントに参加しに来たことと、飯島氏にこのカフェを薦められたこと、ガイドブックでこのカフェを事前に見たことを告げた。そのスタッフの方が給仕の最中には見られなかった素敵な笑顔で来店の礼を言い、お店の場所がすぐに分かったかと聞いてきた。目の前にいる、ガイドブックにも載っている強面の店主がその外見からは想像も出来ないほどの優しい笑顔を僕に向けてありがとうございますと言った。行きつけのカフェを恋しくさせたこのお店にいつかまた来ようと思った。
 次に地下にある六曜社というカフェを歩いて目指した。商店街にあるそのカフェはそんなに歩かずにすぐに見つかったが満席で入れなかった。
 三条通りを歩いてお店をいくつか冷やかしながら、老舗のイノダコーヒーを目指した。
 途中足が向くままに三条通りを横道に逸れて行くと新京極という辺りに入った。しばらく歩を進めると銭湯に出くわした(桜湯という名前だったと思う)。この辺りはとっくに歩き尽くしているはずの銭湯好きの飯島氏は時間を見つけてここに寄ったのだろうかと思いながら通り過ぎた。京都はこんな狭いところまでという道にも車がどんどん進入してくるが、歩行者に対して決してクラクションを鳴らさないことに歩きながら感心した。それからどんなに新しいお店が入っていてもその建物の外観が昔のまま残してあることだ。何だかロンドンみたいでいいなと思った。同じ関西でも大阪は訪れる度に「ここも日本なのだ」と思うが、京都は、今回短時間歩き回っただけだが、「日本はやはりいいな」と思った。
 目指したイノダコーヒーの本店に着き、禁煙席を希望した。来客の多数が希望するのであろうガイドブックにあるオープンテラスの席は満席らしく、旧店舗をそのまま客席にしたようなところに通された。そこには古いレジズターや、古いポット等が店の歴史を伝える写真とともに並んでいて、ちょっとした博物館のようだった。このカフェの名物である予め砂糖とミルクが入っているコーヒーを飲みながら今回の短い旅を振り返った。
 ELEPHANT FACTORY COFFEEを探している時に先斗町の方まで出てしまった。先斗町と聞いて思い出すのは、昔の同僚が大阪出張に同行した際に取引先に接待された所ということだ。大阪にあるその取引先は自分たちの不十分な働きをその接待で帳消しにしようとしていた。僕は仕事の後の旅先でのせっかくの自由時間をそんなちんけな方々と過ごしたくなかったので先斗町へ行くのはお断りした。そんなことを思い出させる先斗町へ迷い込んでしまった時に、東京ではあまり見かけない雰囲気のバーや飲み屋があったので、今度は最低一泊で来てバー巡りをしてみたら面白いだろうと思った。お店同士が隣り合っているので本当のはしご酒が出来そうだ。
 イベント会場に戻り、飯島氏とそれまでの数時間一人で歩いてきた様子や訪れたカフェの印象などを話した。9月末に投稿するのに別のストーリーを用意していたが、今回の京都の話を書く旨と翌日のイベント最終日が無事終わりますようにとチームトラベラーズの皆さんに告げて京都駅へ向かった。
 東京駅からJR線で自宅への最寄り駅に着いた時、ホームで駅名の書いてある表示を携帯電話のカメラで撮り、「帰宅(笑)」とだけ書いたメールにその写真を添付し、友人達に送信して京都への日帰りの旅を締め括った。日帰りのちょいと遠出の雰囲気が伝わっただろうか。一日がかりで伝えたのだけど・・・。
 翌日海外の友人達に清水寺の絵葉書に、「京都へ日帰りで行って来ました。観光スポットへはどこへも行かず、ノートブックのイベントとカフェを3軒巡って来ました。」と書いて送った。次回バー巡りが実現したら、金閣寺の絵葉書で「京都へ一泊で行って来ました。また観光スポットへはどこへも行かず、今回はバーを○軒巡って来ました。」と書いて送ろうかと思っている。
 ちょいと遠出のつもりだったが、充実した立派な旅になった。こんな旅も悪くない。