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『久々・1』

『久々・1』

2010/04~2007:STORY
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 先日学生時代からの親友に約7年振りに再会した。Jは僕が9・11のテロの直後に失業した時に真っ先に連絡をくれた方々の一人である。当時オーストラリアでご商売をされていた御尊父の仕事を手伝わないかと言ってくれた。その申し出がその時どれだけありがたく嬉しかったかは筆舌に尽し難い。そのJとはお互い変わっていないことに喜び大いに飲み、大いに食べた。飲みっぷり、食べっぷりも学生の頃とお互いに変わっていなかったのには笑ってしまった。久々に会った友人が変わっていなかったというのは嬉しいものである。Jとの会話を切っ掛けに6年前にW杯で一緒に働いたIちゃんのことを思い出した。IちゃんはあるJリーグのチームの広報を勤めている。同い年ということで親しくなり現在に至っている。約5年振りに電話をすると挨拶もそこそこに当時と全く変わらない元気な声が返ってきた。手短に用件を伝えただけの久々の電話でIちゃんも全く変わってないことがわかり嬉しくなった。約20年前にニューヨークで観たAC/DCが先週約9年ぶりに新譜を発表した。事前に予約を入れて発売日に取りに行き早速聴いた。彼らもまた嬉しくなってしまうほど変わっていなかった。

 年に何回か無性に肉が食べたくなる時がある。その時にステーキや焼肉とともに候補に上がるのがスペアリブだ。国内ではHRCやTonyRoma’s、海外ではPlanetHollywoodやニューヨーク郊外のシェラキュースにあるDinosaurBBQ等で食べてきた。スペアリブを食べたくなった時に必ず思い出すのがシカゴにある「Carson’s」だ。有給休暇を取ってシカゴへ遊びに行く時に、当時勤めていた会社の先輩のKさんが「ここのスペアリブは美味しいから食べに行ってらっしゃい」と教えてくれたお店だ。

 シカゴ滞在中の一日、Kさんのお薦めのお店Carson’sへ予約を入れて食事に行った。それまではスペアリブに対して関心は薄かったが、予想外の美味しさに驚いた。同行した母もたまに思い出すようで、思い出す度に再訪したいと言う。

 シカゴへ行こうと思った切っ掛けは何だったのだろう。デトロイトの友人宅を訪れた後でのただの寄り道だったのか、当時マイケル・ジョーダン全盛のブルズのホームタウンへ行ってエア・ジョーダンを買いたかったためか、カブスのリグレー・フィールドで野球を観たかったためか、学生の頃よく読んでいたボブ・グリーンのコラムの影響か、ニューヨークでもロサンゼルスでもなくシカゴへ行こうと思ったのはそれらの理由だったと思う。

 シカゴには何度か訪れるチャンスがあった。訪れる度に思い出深い街になっていった。昔から大好きだった大リーグも歴史あるリグレー・フィールドで観戦したし、あの野茂英雄が投げるところを観たのもシカゴだ。この街に教えてもらったものの一つに美術館を訪れる楽しさがある。シカゴ美術館には名前は覚えていなくても何度も目にしたことがある絵がたくさんあった。例えば、カイユボットの「雨の日」、スーラの「グランド・ジャット島の日曜日の午後」ゴッホの「自画像」等だ。僕が世界一好きなエドワード・ホッパーの「ナイトホークス」もここにある。この絵は本当に好きで、今でも都内でポストカードを見つけると何枚も買ってしまうほどだ。シカゴで美術館を訪れる面白さを知って以来、新たな「お気に入り」に出会いたくて何か新しい展示があるのを知ると都内の美術館に足を運ぶようになった。こう書いているうちにポストカードやレプリカではなく本物の「ナイトホークス」を久々に観たくなった。

 この街を歩いていて感じたのは、ニューヨークやロサンゼルスと同じ大都会でありながら、自分なりに感じられる限りではあるが、自分が描いていたアメリカらしさが残っていたことだ。確かにあらゆる人種が共存していたがニューヨークやロサンゼルスほどではない気がした。上手く言えないが本当にアメリカに来ている気がしてすぐにまた訪れたいと思ったのがこのシカゴだった。

 当時はようやくガイドブックが出始めたくらいの注目度だったが、最近書店で手に取ったガイドブックは当時と比べてページ数がかなり増えた気がする。アメリカで一番行きたいところはどこかと聞かれれば今は間違いなくシカゴである。日本人メジャーリーガーが何人かシカゴの球団に所属したので、日本人観光客はかなり増えただろう。いつか久々に訪れたシカゴが当時と変わらずに、当時は目に付かなかった「日本食」や「カラオケ」等の広告やネオンが街に溢れていないことを心から望む。自分が当時感じたアメリカらしさは変わっていて欲しくはない。

 「Carson’s」を教えて下さったK先輩とは今でもメール等のやり取りはあるものの7年近くお会いしていない。久々にお会いした時に先日Jと会った時のように変わっていないお互いを喜べたらいいなと思う。