

ながい旅の途中で
幼い頃、母と手をつないで行った町の小さな本屋さん。マンガ本が大好きだった母の週末お決まりコースだった。
本を買ってもらったり、アイスを買ってもらえる週末のその時間が楽しみだった。その本屋さんはちょっとした文房具も扱っていた。
なかでもレターセットはとりわけ可愛らしいものが多くて例えばゾウとかペンギンとか、ただ絵が描いてあるだけじゃなくて型抜きにしてあったり、ちょっと変わったものが売ってあった。
もちろん、おねだりして買ってもらう。
ワクワクとウキウキの宝庫だった週末の本屋さんにあの頃は分からずにいた、私の未来の端っこがあった気がする。
いつも気に入り手にするレターセットの下の方には決まって“MIDORI”と書いてあった。
幼い頃、私は“みどり”という女の人が可愛らしい絵とか形とか考えているものだとばかり思っていた。
私もいつしかこの“みどり”さんのような仕事ができたらいいなと見えない姿を想像してみたりした。
あれから何年経ったのだろう。
私はあの小さな町を離れた。
幼子の手を引いた母の温かな手は今は遠くへ。
毎日、
紙に触れ 色を目にし 字を読み
数字とにらめっこしている。
名刺には
印刷会社株式会社 営業部 私の名前。
社会に出て出版社で営業・編集。広告代理店で制作のアルバイト。
どれも人に言えるほど長い経験ではなかったけど手探りで進もうとした。
そして今の印刷会社に勤めて4年目になる。
“みどり”さんのような仕事をしたいと思ったあの頃。
ちょっと変わったレターセット
型抜きの紙 可愛いシール
買って貰うのが楽しみだった。
ワクワクとウキウキの宝庫だった週末の本屋さんに
あの頃は分からずにいた、私の未来の端っこがあった気がする。
年月の流れが ながい旅路のように思える。
くねくねの道、きれいな花もあった、道を塞ぐ大きな岩もあった。
まだまだこの道は続いているし、私も歩き続けている。
出発地点はあの本屋だったかもしれないし、
そこまで手をひいた温かな母の手だったかもしれない。
そんなことをみどりの大きな木の下で思いながらまた歩き続ける。