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『ケチャップ』

『ケチャップ』

2010/04~2007:STORY
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約2年ぶりに訪れた香港。 早いもので中国へ返還されて今年で10年だそうだ。
何度降り立ってもこの空港は今ひとつ馴染めない。
返還以来何度も降り立っているが、 10年経っても僕には未だに「新空港」だ。
街の中へ突っ込むような着陸や、入国審査を終えた後に遭遇するこれからの旅にワクワク感を加えてくれた独特の慌しさを持っていた啓徳空港がとても懐かしい。
その後タクシーで10分も走ればあの独特の横長のネオンの数々が迎えてくれる「流れ」が大好きだった。
一日昼食の時間が遅くなってしまった。 夕食は既に海鮮料理の予約が入っていたので、いくら大好きでもローカルフードは避けたかった。
2年前滞在した老舗のPホテルでサンドイッチを食べてみることにした。 エントランスを入ってすぐのロビーにあるコーヒーハウスは相変わらず混んでいた。
以前はそのロビーで記念撮影をしている人がいると厳しく注意されていたが、フラッシュが引っ切り無しに焚かれていた。
テーブルに案内され母はクラブハウスサンドイッチ、 僕はローストビーフのサンドイッチを注文した。
ホテルのコーヒーハウスでサンドイッチを食べることなど東京ではほとんどしない。
しばらくすると、 他のウェイター達と違い上品なスーツをカチッと着たマネージャー格の人が我々のテーブルに様子を伺いに来た。
ケチャップとマスタードが無いことに気づいたようですぐに持って来た。
テーブルの上に置かれたケチャップとマスタードはどちらもシンプルで何もラベルが貼られていない小瓶に入っていた。
ふと思い立ち、そのマネージャーらしき人に尋ねた。
「このケチャップはPホテルのホームメイドですか?」 
そのマネージャーらしき人はそうきたかというような笑みを浮かべて、
「いいえ、Hのケチャップです。」
と有名なアメリカのブランド名を告げた。
さすがのPホテルもケチャップまでは作っていなかった。
限られた人々しか滞在できない伝統と格式のあるホテルに万人が使用しているケチャップ。
この組み合わせが何となく可笑しかった。