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『開運・うさぎ旅』

『開運・うさぎ旅』

2023/03:STORY
あい@ゆる旅人


 今年も例年通り1月に初詣のための京都旅行を予定していたが、最強寒波の到来と見事に重なってしまい日程変更を余儀なくされた。
冬の古都の風情をのんびりと楽しむべく、初詣の合間は和のアフタヌーンティーをしたり京都らしい文房具や和雑貨のお店をめぐる街歩きの計画を立てていたのに、
再度スケジュールを組み直した時には大阪での用事も一緒に済ませる「2月の大阪京都・弾丸トラベル」になっていて、慌ただしい旅はじめとなった。

 滞在時間に限りはあれど、食べたいものは外せない。
大阪に着いた直後にたこ焼きを、大阪から京都に向かう前にうどんを食べた。
できたて熱々のたこ焼きをいきなり一口で食べたら口の中がどうなるか久しぶりに体感出来たし、
黄金色に輝く端正なお出汁のつゆに甘く炊かれたお揚げが乗ったきつねうどんは関西圏ならではの味覚だ。
今回の旅の裏テーマは「今年の干支うさぎにちなんだ場所に行くこと」にしたので、大阪で入ったうどんのお店は「美々卯」だった。
商標がうさぎだから、湯飲みから爪楊枝入れに至るまで全てがうさぎ一色。卯年でなくても大阪滞在時によくお邪魔するお店だが、
今年は卯年だと思いながら店内を眺めてみたら格別な気分になった。

 京都では毎年参拝している神社をめぐりつつ、いつもとは違う路線のバスに揺られて東天王・岡崎神社へ向かった。
鎮座されている神様のお使いがうさぎなので、境内には狛犬ならぬ狛兎がいるし、
白とピンク色の素焼きのうさぎ(中におみくじが入っていたもの)が朱色の欄干に並べられており、SNS映えする神社として元々人気を博していたが、
今年の初詣シーズンは大変な混雑ぶりだったそう。多産のうさぎにちなんで安産・子授けや縁結びに御利益がある神社のため、
人生のパートナーや仕事・趣味での良いご縁を祈願し、例のごとく境内の至るところにいるうさぎ達を愛でたり撮ったりして楽しんだ。
御朱印も御守り袋もうさぎ柄で可愛らしい。飛躍できる一年になるよう、飛躍のぴょん守りを授与いただき、おみくじを引いた後の素焼きのうさぎは割れないように大切に持ち帰った。

 順調に旅程を進めていく中で私の心に暗雲が立ち込めていったのは、参拝の都度引いていたおみくじの結果によるものだった。
神社ごとにおみくじを引くことについてもどうかと思ったのだが、金運や縁結び等、神社の御利益に応じてお願い事を変えて参拝しているので、
専門分野が違うそれぞれの神様からいただくお手紙だと思い、かなり念を込めて引いたおみくじ。
大吉や小吉で一喜一憂はしないが、おみくじの下半分に書いてある項目別のお告げに私は注目する。
願望、旅行、失せ物、縁談、病気のあたりは特に念入りに見るのだが、ここの記載内容が三回連続、良くない結果で一致した。
「願望は叶わず、旅行は行かぬが吉、失せ物は出ないし病気は重い」。
 特に旅行運の書きぶりがほぼ同じで、旅先で病気になるし盗難に遭うとか、ろくなことにならないから旅に出るなと書かれていた。
参拝した神様総出で私に強く旅行自粛のメッセージを送られているんじゃないかと思えてきて、だんだん深刻になってくる。
 母が引いたおみくじがとどめだった。「旅行:連れに注意」。
ひとり旅や友人との旅行はしない母にとって、旅行時の連れは私しかいない。
私の財布と帰りの新幹線の切符を、母にすかさず取り上げられた。
 こうなると、旅行中に起こったら困ることばかり考えるようになってしまった。
ついでに、昨年うっかり失効させたパスポートを今年こそは作り直そうと思っていたが、
こんなに旅行を止められると今年のパスポート再取得は無しにしようかとか、春に計画している旅行を中止すべきか、
連れ歩いている「旅するテディベア」が旅先で盗られてしまうのではないかと、不安が不安を醸成して、不安の錬金術状態に陥った。

 鬱々とした気持ちを引きずったまま、最後に参拝したのが毎年御祈祷を受けている上賀茂神社(賀茂別雷神社)。
雷を分けるほどの強大なパワーを持つ御祭神の神前で、すがるようにお祓いを受けてからおみくじを引いたところ、
「旅行は気持ちの切り替えになるので、宜しい」とのことだった。開運とは、こういうことを言うのではないだろうか。
宗教が全く異なるが、モーゼの十戒の海が割れるシーンが頭をよぎった。目の前に道は拓かれた。春の旅行計画、続行決定。
 この春は海沿いの街へ行く予定なので、海に落ちるのかもしれないし海産物に当たるかもしれない危険性が完全に去ったわけではないが、
無事に行って帰ってこれるよう細心の注意を払って行動しようと思う。生モノを食べるのは、避けようかな。

 2023年の旅はじめ、開運うさぎ旅の締めくくりは、京都のハレの日の食べ物でもある鯖姿寿司をいただいた。
 うさぎ旅で、何故に鯖寿司?と思われてしまうかもしれないが、鯖姿寿司の老舗「いづう」では、隠れミッ◯ーならぬ隠れうさぎがいるからだ。
店先の暖簾をかけるところの上部を見ると、うさぎの意匠になっている。
そして、鯖姿寿司の断面を見れば鯖の身が「う」の文字に、酢飯の形はうさぎを模して作られているそうだ。
創業者いづみや卯兵衛氏の名前にちなんで「いづ卯」→「いづう」という屋号が付けられていることで、うさぎ推しの伝統技法で作られた鯖姿寿司。
以前は何も知らずに食べていたのだが、このことを知ってからは卯年の京都旅行の際に必ず、断面をよく見てうさぎを認識してから口に運ぼうと決めていた。
実現できた喜びも一緒に噛み締めて、旅を締めくくった。

 うさぎよろしく、あちこちぴょんぴょんと飛び回った旅程で、帰りの新幹線に乗る前にカルネパンを購入する頃にはヘトヘトになっていた私。
気が付いたら自分の周りが外国人観光客に囲まれていて、日本にいるのに日本じゃないように感じる京都も久しぶりだった。
平日でも街が地元の方や観光客の往来で混雑し活気溢れる様子は、未曾有の危機を乗り越えてようやく取り戻しつつある、かつての日常なのだ。
失った時間を巻き戻すことは出来ないが、確実に世の中が前へ進んでいることを実感した。
そして、ここ数年で急増した自宅時間によって日頃の運動不足に拍車がかかっている私は、基礎体力を極限まで失っていることを自覚せざるを得なかった。
上賀茂神社で引いたおみくじにも、「引きこもるな、外に出よ」と書いてあった。旅行での外出は好きだが、普段は根っからのインドア派な私の性質を確実に見抜かれている。
 今年こそは体力増強のため運動量を増やそうと本気で思ったし、
思うだけで行動になかなか移せなかった歳月が長かった分、
勇気を出して一歩も二歩も前に踏み出せるような一年にしたいと思った。