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『旅はじめ、京都』

『旅はじめ、京都』

2023/01:STORY
あい@ゆる旅人


毎年、旅始めは京都での初詣旅と決めている。
京都の神社で御祈祷を受ける初詣をするようになって、かれこれ10年以上経った。途中で方針を変えると、何か悪いことが起こったときに「今まで参拝していた神様の御加護が無くなったからでは?!」と多方面に原因追求してしまうので、毎年決まって上賀茂神社(正式名称は賀茂別雷神社)で参拝している。
厄除けその他諸々、日頃の御礼参り方々新しい一年も穏やかに暮らせるよう祈願し、私も家族も厄年の3年間を経験したが、おかげ様で平穏無事に過ごせた。以来、上賀茂まで出向いているのだ。

京都駅からは、少し遠い。京都駅前から上賀茂神社前まで市バスが出ているので、片道50分程のバス旅だ。下鴨神社前を過ぎた頃から観光客はほとんどいなくなり、地元の方々の乗り降りが多くなる。窓の外もローカルな街並みになるので、京都の人々の日常が垣間見えて楽しい。住宅街の中のバス停近くに、とれたての賀茂野菜の自動販売機があるのを羨ましく眺めていた。京野菜は高級路線の価格帯で売られているイメージだが、ここでは地場価格。いつか途中下車して購入しようと思っている。往復で2時間弱は費やしてしまう道のりも、こうして楽しんでいるので苦にならない。

上賀茂神社に着いたら、御本殿まで広大な敷地を歩く。遮る建物も何もないので、真冬の風が容赦なく吹き付けてきてとにかく寒い。京都の街中を歩くよりも格段に寒く感じるのは、社殿の背後にそびえる神山から吹く風に日頃の穢れを浄められているからかもしれない。御神前に上がる前に、出来るだけ自分の心身を浄化しておきたいところだ。普段、いかに邪心や欲にまみれた生活をしているか痛感させられる瞬間が、まもなくやって来る。
いざ御神前に座った私の脳内は、雑念や邪念が急に襲いかかってきて追い出そうと必死になる私と、邪な考えやバカな妄想が大戦争を繰り広げるのだ。ちょうど、大晦日に放送されていた「絶対に笑ってはいけない」番組の出演者の心理に近いと思う。絶対にふざけてはならない神聖な場所で、こういった苦労をするのは私が日常的にしょうもない事ばかり考えているからなのだろうと反省してしまう。

昨年は某人気アニメの影響をまともに受けて、笑いの発作に耐えるのに震えた。そのアニメは鬼にされた妹を救うために鬼と戦うストーリーで、雷の属性で戦う登場人物がいる。御祈祷の前後に神職の方が神社の云われや御祭神について簡単にご説明くださるのだが、上賀茂神社の御祭神は、神社の正式名称からも分かるように雷を司る強大なパワーをお持ちの神様とのお話をされた時、どうしても某キャラクターの必殺技「雷の呼吸・壱ノ型」を連想してしまい、何故か私の笑いのスイッチが入った。マスクをしていても目が笑うので、下を向いて神妙なふりをしているしかなかった。2022年、バチが当たらず健やかに過ごせたのは神様が寛大な心で赦してくださった故なのだと思う。次は無い。今年こそは、清らかな心で臨みたい。全集中だ!

御祈祷いただいた後は、境内に流れる御手洗川を眺めながら休憩する。本来、手水舎が出来る前はこの川で穢れを落として参拝していたのだから、雑念の塊の私にはピッタリの場所だ。
せせらぎの近くで佇んでいると心が鎮まる。凛とした寒さが、身を引き締めてくれる。今年も頑張れそうな気がしてくる。
御祈祷を受ける前に御手洗川のほとりで心身を落ち着かせてから御神前に上がれば良いのに、事後にも心の浄化を行っている。
こうして、かなりふざけているようだが一年の家内安全と満願成就をしっかり祈願し、上賀茂神社を後にするのだ。時間が許す限りはバスを途中下車して下鴨神社でも参拝し、ゆかりの深い二つの神社からの御神徳をいただくことも多い。下鴨神社付近には有名なみたらし団子屋さんがあるし、境内にも下鴨神社ならではのお菓子がいただける茶店もある。御祭神のエネルギーを体内に取り込み、甘味まで摂取出来たらパワー倍増間違いなしだ。

京都で必ず参拝するもう一つの神社は御金神社で、その名の通り金運に関する神様である。「宝くじ高額当選」のご利益で関西圏では有名な神社だ。証券会社勤務の方や投資運用をされている方の参拝も多いらしい。街中にひっそりと鎮座されている小さな神社といった雰囲気だが、金色の鳥居がなかなかに目立っていて、この鳥居の写真を撮って待受画面にすると金運がアップするそう。なんだか、目がギラギラしてきてしまう。
私はギャンブルはやらないし宝くじも買わないが、お金が無くなってしまうのは困るので「老後の資金に困ることのないように」「今の仕事が無くならないように」お参りしている。独身ひとりっ子の老後は不安要素が格段に多いから、お金は出来るだけあった方がいい。一攫千金ではなくコツコツ老後資金を貯められる、自分に合った環境の今の職場で長く働くことができるよう祈りを込めて絵馬を奉納する。
御金神社は、大量の絵馬が折り重なるように奉納されている様子も圧巻だ。ちょっと怖いくらいの数の絵馬に書かれている、見ず知らずの人のお願い事をチラッと拝見すると「宝くじ一等前後賞当てて億万長者になりたい!」「総資産額××億円達成したい」というものから、相当差し迫った切実な内容まであった。資本主義社会の、光と闇を見るような気持ちになってくる。おびただしい数の絵馬は、社会不安の表れなのかもしれない。

上賀茂神社・下鴨神社で一年の御守護を祈願し、御金神社でお金に困らないよう切々とお願いしたら、一連の初詣が完了。あとは、その年の干支にちなんだ神社仏閣を参拝したり、今の自分の懸案点を解決するパワーをいただけそうなご利益がある寺社を訪ねる。神様や仏様の専門分野ごとにお願い事を託すので、病院で診療科に応じて受診するようなイメージに近い。卯年の2023年は、岡崎神社を参拝させていただこうと計画中だ。

そして、京都初詣旅行の間に立ち寄ることを楽しみにしているのがトラベラーズファクトリー京都。最寄り駅が御金神社と同じ烏丸御池なので、御金神社参拝の前後にお邪魔する。
京都限定のリフィルを買い足したり、センスが光るセレクト商品が並ぶコーナーを楽しんだ後、大きな茶色の革のソファーが置かれているスペースで少しだけのんびりさせてもらう時間が至福だ。京都ではとにかくよく歩くので、あの包容力抜群のどっしりしたソファーに包み込まれるように腰かけると、足腰の疲れがほぐれるように和らいできて、また今年もここに来ることが出来たなぁ・・・という感慨が深まる。本棚もあるし、大きな窓から光が差し込んできて日だまりのように暖かい。お気に入りの癒しスポット。
それと、大好きなスタンプコーナーも忘れてはいけない。いつも、大興奮してしまう。どれを捺そう?全部捺そう!
スタンプを綺麗に捺すことが苦手な私は、緊張のあまり手が震えて絵柄がブレたり欠けたり、逆に強めに捺しすぎて滲んでしまったりする。失敗した時、ついつい地獄からの阿鼻叫喚のような奇声を挙げてしまう癖は、スタッフの方が驚くから早急に直さなければ。本当は買ったばかりのリフィルに直接捺したいところだが、失敗すると心が完全に折れるので、備え付けの用紙にスタンプして成功したものだけを切り貼りしている。自分でしでかした失敗も受け入れて、許せるようになりたい。

昨年2022年は、長年期待しつつもなかなか巡り会えなかった光景を目にすることが出来た。それは、積雪した京都だ。時折雪がチラつく日に当たったこともあったが、本格的に雪が降りしきっていたのは昨年1月に訪れた時のこと。京都では、何年ぶりかの記録的な降雪量だったそう。
名古屋駅で新幹線に乗るときは晴天だったのに関ヶ原あたりから雪が降っていて、これは例年よく見る景色なのだが、米原駅を過ぎて京都に近付いても雪が止んでいないのは始めてだった。その日、雪道にはあまり適さないブーツを履いていた。だが、困るどころか予定を翌日に変更して大喜びで金閣寺へ向かった。雪の金閣寺!写真やニュースでしか見たことがない。平日なのに、同じ目的の観光客で混み合うバスに揺られて金閣寺に到着し、山門をくぐると前を歩いていた人達の歓声が上がった。憧れていた景色は、すぐそこにあった。
真冬の青空の下、真っ白の雪を戴いた金色に輝く舎利殿。まさに絶景だ。マスクの中で口をあんぐり開けたままカメラのシャッターを押しまくり、人混みの流れに任せて回遊式庭園を楽しみながら金閣寺を存分に堪能した。修学旅行や家族旅行で、成人してからも何度か訪問して見慣れているはずの金閣寺だが、白と金のコントラストで目映いばかりに輝くその姿は神秘的で、畏怖の念を感じさせる圧倒的な美しさだった。お気に入りのブーツやロングコートが雪で濡れて泥も付いたが、金閣寺で極楽浄土の世界を見たのだから、多少の犠牲は致し方ない。
到着したときは綺麗な青空だったのに、急に灰色の雲が立ち込めてきて冬空の様相になると、もう太陽が顔を覗かせてくれることは無かったけれど、一時だけでも青空に映える雪化粧の金閣寺に出会えたのは、奇跡のようなタイミングだった。

私の旅は、事前に予習した内容を元に綿密に練った予定に沿って楽しむことが多いので、予期せぬ絶景に出会ったり、予習して得た情報を超える感動体験をすることがあまり無かった。これからは、ふいに訪れるチャンスをもっと楽しめるような旅もしてみたいと思うようになった。無計画旅と、ひとり旅は未経験だ。

まだ真新しい紙の匂いがする手帳を開いて、行ってみたいところや旅先でやりたいこと、見てみたい風景を漠然と書き連ねてみる。実現できるかどうか現実的に考え始める前の、ワクワクしながら旅の妄想を繰り広げる段階から、もう旅は始まっている。
2023年も、良い旅が出来ますように。