

トラベラーズファクトリーとスタンドバイミー
中目黒のトラベラーズファクトリーに行くと、いつも映画のスタンドバイミーを思い出す。
旅を連想する場所であり、自転車などが飾ってあるせいか「ボクらの秘密基地」的な要素を感じるのだろう。
私がスタンドバイミーを初めて観たのは中学生の時だった。
あの頃からずっと心に残っている大好きな映画の一つで、今日までくり返し何度も観ている青春映画の金字塔である。
少年4人が線路伝いに死体探しの旅に出るこの物語には、ツリーハウスの秘密基地が登場する。
私はトラベラーズファクトリーが、その秘密基地の延長のような場所だと勝手に思い込んでいる。
映画の中の彼らは、高校、大学と進むにつれ、お互い付き合いも薄れていってしまったけど、トラベラーズファクトリーは、仲間うちで集まっていたあの少年たちが大人になるにつれ、経営とか仕入れや物流、モノ作りなどを手探りで学んで、あのツリーハウスが一つの建物に代わり、世界中からどんどん人が集まるお店になった。
あちらは作られた映画の中の話で、こちらは現実の実店舗だけど、映画の風景とトラベラーズノートが想像の中であまりにもしっくりくるから、つい重ねてしまう。
森の中で夜を明かし、早起きして地図を確認する少年の一人、ゴーティはのちに物書きになる設定だし、彼のバックパックの中にはトラベラーズノートが入っていてもおかしくない。
トラベラーズファクトリーでは、オリジナル製品と相性の良いコラボ商品が陳列することもあれば、
写真が展示される期間があったり、その道のプロがやって来て本格的なカレーやおでんが食べられる日もあったりする。
何もイベントがない時だって、ゆっくりソファーに腰掛けてその場で淹れてくれたコーヒーが飲める。
やっぱりお店というよりも、同じ嗜好の人が共鳴し合って集まった基地という方がしっくりくる。
トラベラーズノートは文房具だけど、お客さんの方も文具を買おうという感覚でファクトリーを訪れる人は少ない気がする。
私とトラベラーズノートの出会いは、とても些細なことだった。
何の気なしに、隣町に住む某漫画家さんのブログを見ていたら、たまたまトラベラーズノートという文字を発見したのだ。
旅が大好きな私は、トラベラーズという名前に惹かれて、それは一体どんなノートなんだろう? と思った。
実物を見るべく、すぐにトラベラーズノートを取り扱っている近所の文房具店に行ってみた。
その時はまだ茶と黒の2色展開だったけど、私は一枚革にゴムで留めるだけのそのシンプルな作りがとても気に入った。
旅に出ると誰もが写真を撮りたくなるし、その時の出来事や思ったこと感じたことを
どこかに残しておきたいという思いが湧いてくる。
いくらデジタルが進んだって、撮った写真のうち何枚かはプリントしたいと思うものもある。
ところが、旅の写真と旅日記を同時に記録するに相応しい媒体はそう無いような気がする。
売り場に行けば、LIFEとかロディアとか、ちょっと表紙のデザインがオシャレなノートはいくらでも見かけるけど、それらに旅先で日記を書こうとは思わないし、
上質なレザーで一生モノとして使えるようなシステム手帳を旅行記用に使おうとも思わない。
逆にトラベラーズノートの良いところは、月間、週間スケジュール用のリフィルをセットすることで、普段使いができるところだ。
365日のうち300日旅ができれば本望なのだけど、そうも言っていられない。
旅するように日々を暮らす。そのコンセプトも私はたいそう気に入った。
私は子供の頃、絵を描くことが大好きだった。
最近はInstagramなんかに作品を投稿出来るから、ノートに描かれた絵はよく見かけるようになったけど、美術やデザイン関係に進む以外の人間は、大人になると絵を描くことを辞めてしまう。
わざわざ絵用の道具を持っていて、「週末は絵を描くことが趣味なんです」という人を私はあまり知らない。
自分もトラベラーズノートに出会う前はその一人だった。
私は今、ほぼ毎日トラベラーズノートに絵日記を描いている。
トラベラーズノートに出会わなければ、今の私の暮らしの中には絵も日記も存在していなかった。
日記には楽しかったことはもちろん、どこかで吐き出さないと怒りが収まらないような事まで何でも書いている。
こんなことを愚痴ったら、きっと離れていく友人もいるだろうし、聞いて欲しくて親に電話で喋ろうものなら いい大人になってそんな口の利き方はやめなさい! と激怒されそうなことまで包み隠さず何でも書く。
トラベラーズノートは、そんな私の思いを否定するでも肯定するでもなく、ただ優しく受け止めてくれる。
私はトラベラーズノートと一緒に棺桶に入りたい。
これは結構本気で思っていたりする。
話を映画に戻そう。
スタンドバイミーは少年から青年へと大人に成長するための葛藤のような旅だった。
出演していた少年たちはもうすぐ50才を迎える頃だろうか。
主役の一人だったクリス役のリバーフェニックスは、23才という若さでこの世を去った。
自分も歳をとったし、周囲のモノだって日々変化している。
良くも悪くも世の中は無常だ。
昨日と同じように見える1日でも、今日はまた別の日。
そう思いながら私は今日もトラベラーズノートを書いている。
来月には京都に4つ目の基地が出来上がるということで、作る側の方々はきっと大変な苦労があったかと思いますが、トラベラーズファクトリーのいちファンとしては、ただただ純粋に楽しみであり、まずは大きな声で、おめでとう! と言いたいです。