TRAVELER'S notebook Users Posts(2007-2023)
『お取り寄せ』

『お取り寄せ』

2019/03:STORY
Hide

 「みんなのストーリー」へ投稿を始めたのはトラベラーズノートのウェブサイトが立ち上がって間もなくだった。サイトが立ち上がったのは私がトラベラーズノートを使い始めて数ヶ月後。トラベラーズノートが世に出てから一年後くらいだったと記憶している。投稿は現在13年目になる。
 中目黒のトラベラーズファクトリーができる以前から都内でトラベラーズノートのイベントがあると結構な頻度で参加している。投稿したストーリーに関するやり取りや、イベントに参加する回数が増えるに連れ、プロデューサーの飯島淳彦さんを初めスタッフの方々と親しくなっていった。旅先からの絵葉書、旅のお土産や情報などをやり取りするようになって久しい。
 2014年の9月に台中と台北でトラベラーズノートのカスタマイズを主としたイベントが行われた。大盛況のイベントを終えて帰国したスタッフの皆さんからお土産をいただいた。お互いに台湾好きなのを知っていたので、いただいたお土産はニヤリとしてしまうものの詰め合わせだった。
 その中に台湾土産の定番であるパイナップルケーキが二つあった。航空会社にいた頃は台北と高雄が担当都市だったこともあり、訪れる度にお土産で結構な数を毎回訪問先からいただいた。職場、家族、親戚、行きつけの酒場の常連たちと分けても余りあるほどの量だった。仕事でその両都市を頻繁に訪れていた頃に、恐らく一生分のパイナップルケーキを食べただろう。そう思えるほどたくさんいただいた。


いただいたお土産の数々。それぞれセンスのいい図柄にニヤリとし、後から台中のもので統一されていること知ってまたニヤリとしました。
この話のキーとなるパイナップルケーキは赤枠で囲いました。



 台湾のお土産としてパイナップルケーキをいただくのは久しぶりだった。その数年前に航空会社の先輩のKさんが送ってくださった。間を開けずして弟が台北に出張した際に当時評判だったものをお土産としてもらって以来だった。それぞれ異なるブランドでお互いに一味違い、パイナップルケーキがかなり垢抜けていたので驚いた。いい意味で期待を裏切られて楽しい思いをした。
 トラベラーズノートのスタッフからのお土産の中にパイナップルケーキを見つけたときは、かつてパイナップルケーキをいただく度に抱いた“また・・・?”という気持ちにはならず、最近のものはさらに一味違っているのだろうかと期待を抱いた。一刻も早く食べてみたかった。旅慣れているトラベラーズノートのスタッフがあえてお土産の一つとして選んだものでもある。期待はさらに高まった。
 “これは美味いッ!” と一口食べて思った。いままで食べてきたものにはあまり感じられなかったパイナップルの香りと酸味がほのかに感じられるのが気に入った。一つ母に分けた。母も早速食べて美味しいと言った。再訪の際はもちろん、周りの誰かが台湾に行く際には買ってきてもらおうと思い、パッケージを手元に残した。

 
丸いパイナップルケーキは初めてだったかもしれません。右はしばらくとっておくことになったパッケージです。


 台湾に想いを馳せていたのも束の間、台北再訪の機会がいきなりやってきた。弟夫婦、母とともに休暇で行くことになった。美味しいと思ったパイナップルケーキをトラベラーズノートのスタッフの皆さんからいただいてからわずか2ヶ月後に台北再訪が決まった。“あっ、あのパイナップルケーキ!”と思い、どこで買えるのか手元に保管しておいたパッケージを頼りにインターネットで調べてみた。辿り着いたここなのではと思ったところにメールで連絡を取ってみた。英語でのやり取りの中で台北ではなく台中で作って売っていることがわかった。台北にそのお店の支店などはなく、台北では手に入らないことも分かった。そのときの台北再訪の旅のスケジュールでは、日帰りでも台中を訪れる時間は皆無だった。
 何回かのメールでのやり取りの中で、現金の代引きでなら宿泊予定の台北のホテルで受け取れる手配することは可能とあった。迷うことなく即お願いした。一緒に台北を再訪する母も弟夫婦もそのパイナップルケーキを旅のお土産にするという。何個入りを何箱という単位で必要な数を算出して注文した。熱心にパイナップルケーキについて尋ねてくる外国人が珍しかったから、きっと通常は行わないであろうサービスをしてくれたのだと思う。
 台北到着後パイナップルケーキの代金を上乗せして両替した。ホテルにチェックインする際に、台中からパイナップルケーキが届く旨を伝えた。コンセルジュに取り次がれて、お店の名前と予め用意しておいた詳細が書かれたメールのコピーと現金を託した。
 翌日の夕方に九份の観光から戻ると、ベッドメイキングが終わったベッドの上に両手でないと持てないほどの大きさの箱がドンと置いてあった。
ベッドから箱を下ろす際に、腕に感じた箱の重さに家族で買ったパイナップルケーキの量を知った。中身を取り出したあとでホテルに処分してもらうのは惜しいレトロ調のデザインの箱だった。持ち帰るには、たとえ畳んだとしても大き過ぎた。
 早速その場で弟夫婦、母、自分の分を仕分けた。パイナップルケーキの入り数によって、箱の大きさはもちろん、箱のデザインも異なった。どちらもしばらく手元に置いておきたくなるようなセンスのよいデザインだった。

 
台中から台北のホテルの部屋に運ばれてくるまでのあいだに何度も地べたに置かれてきたであろうものをベッドの上に置くとは・・・と最初は思いました(苦笑)。
箱のデザインは素敵だと思いませんか? 何とか持って帰りたかったです。



左が30個入りで、右が18個入りでした。それぞれセンスがいい!


 
30個入りの箱を横にすると左のようになります。右の18個入りは包装を解くと素敵な デザインの箱が現れました。箱の中には素敵な絵葉書も入っていました。裏には原料となるパイナップル畑の説明が書かれています。まだ手元にあります(苦笑)。


 パソコンやスマホがあれば売手が世界のどこにいようと、売手と話さなくても必要事項を入力して“ポチる”ことで欲しいものが世界中から手元に届く時代になって久しい。航空券やホテルの予約も同じ。誰とも口をきくこともなく目的地までたどり着ける時代なのだ。メールでではあったが、海外のお店とやり取りをして欲しいものを海外の旅先で受け取ることができた。メールでのやり取りがあった分、無言でポチる買いものよりも多少血が通っている気がした。
 ホテルに届いた大きな箱の中には注文したパイナップルケーキの他に、これもそれぞれ凝ったデザインの箱に入った、インスタントの生姜湯の粉末とカステラのようなケーキが入っていた。お店の宣伝を兼ねているところもあっただろうが、遠方から遥々買いに来た客にそっと添えたおまけに思えた。台湾は訪れた回数が多い国の一つだが、嫌な思いをしたことは一度もない。現地の人々とのやりとりで温かい気持ちになることがほとんどだ。希望の品を宿泊先まで届けてくれるところからおまけまで、ビジネスを越えた台湾の人たちの優しい心根で一人の日本人にここまでしてくれたのだと思っている。


左の箱には小分けの袋に入った生姜湯の粉末が、右の箱にはケーキが入っていました。
どちらも美味しくいただきました。



 帰国して職場でバラ撒く・・・ではなく、配る前に自宅用の分で味見をした。トラベラーズノートのスタッフからお土産でいただいて食べたときに感じたのと同じ“これは美味いッ!”という味だった。翌日職場で配ったときの私の顔はドヤ顔だったに違いない。職場に限らず差し上げた方々は全員絶賛した。
 台北の再訪はいつも慌ただしい。次はもう少し時間の余裕を持ってご無沙汰している高雄も訪ねようと毎回思うのだが叶わないままでいる。この旅を終えて高雄を再訪する前に未踏の地である台中に行かなくてはと思い始めた。パイナップルケーキのお店を訪ねて、日本から届いた私のメールによくぞここまで対応してくれたという感謝を伝えたいからだ。
 お店の名前はあえて書くことを控えた。台湾好きの方なら写真を見ただけでどこだかすぐにお分かりだろう。きっと訪れた人たちを分け隔てすることなく接客するいいお店に違いない。
 初めて訪れた際にはきっと訪れることができた喜びで一杯になるだろう。嬉しさで財布の紐が緩み、買いものに拍車がかかるに違いない。気をつけないと買い過ぎて素敵なデザインの大きな箱に買ったものを詰めて日本に送ってもらうことになる。そうなったとしても、箱が手元に残るならよしとすべきか否かは大いに悩むところだ。



追記:
1.トラベラーズノートのスタッフの方々にはこのバゲージタグをこの旅のお土産にしました。どなたがどの色を選んだかはわかりません。飯島さんは何色を選んだのでしょうか(笑)。




2.パイナップルケーキの話は以前「懐かしい味・1」というタイトルでも書いています。合わせてご笑覧ください

3.この旅については以下のタイトルでこれまで書いています。未読の方 は是非ご笑覧ください。

「その映画は観ていないけれど・・・」
「僕もLCCで旅をしてみた」
「ついにそこへ・2」
「旅先で食べたもの・12」
「旅先で食べたもの・11」
「再会・7」
「再会・6」



「おとなの青春旅行」講談社現代新書