TRAVELER'S notebook Users Posts(2007-2023)
『その映画は観ていないけれど・・・』

『その映画は観ていないけれど・・・』

2018/10:STORY
Hide

 台湾は高雄も含め訪れた回数は恐らく30回は優に超えている。旅の目的は主に仕事だったので観光らしい観光はほとんどしたことがなかった。その台北への旅行は完全に休暇で母と弟夫婦と一緒だった。4人で出かけて行くのはそのときが初めてであった。私にとっては国際線のLCCに乗ったのも初めてであった。
 その旅行ではようやく中正紀念堂を訪れることができた。それまでの訪台で何十枚と中正紀念堂の絵葉書を使っていながら一度も訪れたことはなかった。宿泊先から一人で地下鉄を乗り継いで行き、ついに眼前にすることができた。しばらく立ちすくみながらとうとう訪れることができたということを実感した。旅行中の一人旅のひとときであった。
 中正紀念堂を訪れた翌日に九份へも行ってみた。九份へは母と弟夫婦とみんなで一緒に行った。なぜ行くことになったのかを記憶を辿ると、それは母の希望だった気がする。この旅行は2014年だったが、すでに結構な頻度で台湾が旅番組で取り上げられていた。台北からちょっと足を延ばして九份へ・・・的な番組を観ていたのかもしれない。
 ちょっと足を延ばしたつもりが台北からの電車の乗り継ぎに思いのほか手こずって辿り着くまでに予想していたより時間がかかってしまった。人数が4人だから電車ではなくタクシーで行けばよかったと思ったのは、タクシーで台北へ戻ったときだった。かかった金額も4等分すればそれほどでもなかった。しっかりと下調べしたつもりだったが距離感が掴めず電車にしたことを少々後悔した。振り返ればそれもまたいい思い出となる異国を旅しているときに起こりがちなことだったのだが・・・。
 ようやく辿り着き、しばらく歩いて高台のところから辺りを見渡した。高所から見下ろした景色は都心の高層ビルの窓から見下ろすものとは異なった。やはりそこは郊外であった。解放感も違った。景色を眺めるなんてことは慌しい日常ではほとんどない。見慣れない景色に目を奪われつつも落ち着いた気持ちになっていた。いつの間にかこういう旅先での楽しみ方をしている自分に少々驚きもした。


もう少し天気がよければもっと素晴らしい眺めになったのにと思いました。


 再び歩き始めると行き交う人たちと袖が触れ合うほどの混雑振りに人気の観光地であることを改めて知らされた。土産物屋を初めとするたくさんのお店を冷やかしながらゆっくりと歩いた。実際は混雑でゆっくりとしか歩けなかった。そのゆっくり加減は国会中継でたまに目にする牛歩戦術での歩く速さはこのくらいなのではと思ったほどだった。
 店頭や店内の壁にかかった写真などから日本のテレビ番組が訪れたあとが窺い知れた。それは結構な数であった。異国の旅先で一瞬日本に引きずり戻される気がする大嫌いな瞬間だ。トラベラー各位もハワイなどで同じ思いをなさったのではと察する。昨今の観光事情を表しているのか、台北内はこうした光景がかなり増えた気がした。
 昼食に立ち寄ったお店には日本のテレビ番組の爪痕が全く残っていなかった。シンプルな台湾料理で美味しかった。再訪してもいいなと思った美味しさだった。






九份での昼食です。美味しかったです。
スープもの以外はお皿を洗う手間が省けるようになっていました。



 いい昼食だったと思いながら外に出ると、目と鼻の先のお店で足が止まった。何ともいえない不思議な物体・・・というか食べものをその場で作って売っていた。何度も台湾に来ていたが初めて見たものだった。屋台が集まっている夜市に行けば珍しくないものなのかもしれない。
 30回以上台湾に来ているが夜市で飲み食いしたことは記憶している限りでは一回しかない。林口という桃園空港と台北のダウンタウンとのちょうど中間にあるところの夜市だった。その夜市は仕事で訪れた際に宿泊したホテルから歩いて数分のところにあった。屋台が集まっているところのどこか一か所に立てば全て店が見渡せてしまうほどの規模だった。これも夜市というのだろうなという印象だった。きっとガイドブックには載っていないだろうと思った。
初めて目にしたその「不思議な物体」を買って食べてみた。見かけと同様初めての味であった。それが一体何だったのかもう少し調べていつか書くつもりでいる。ここでは写真を載せるのを控えておく。その話が掲載されるまでどんなものか想像していてほしい。
 ゆっくりとではあったが人の波に押されながら結構歩いた。歩き疲れたので九份らしい茶店に入ることにした。九份の観光案内の写真によく使われているのがこの茶店を外から撮った景色だ。大ヒットした日本のアニメーション映画にこの茶店の景色にそっくりのところが出てくるらしく、日本人に人気のスポットとなったとのことだ。その景色をモデルとしたことを製作者側は否定しているらしい。
 やや見晴らしのいい席で景色を見ながら台湾式の茶具で供されたお茶をゆっくりと飲んだ。弟だけはなぜかビールを飲んでいた。この旅行ではいつでもどこでもビールだった。母や義妹があまりいい顔をしなくても休暇なのだからとお構いなしに平然と呷っていた。台湾式に淹れたお茶と一緒に出てきた茶菓子を楽しみながらその様子を見ていた。時折吹いてくる風が心地よかった。久しぶりに自然の風の心地よさを感じた気がした。11月末なのに肌寒ければ薄い上着を半袖の上に羽織るだけで事足りる気候にアジアを感じた。




茶店にて。お茶請けは和菓子に通じるものがありました。
落ち着けます。今度から台北市内でもひと休みは意識してお茶のお店に行ってみようと思いました。



 その茶店で日本へ出す絵葉書を買って外に出た。せっかく九份に来たのだから、今回台北から出す絵葉書は中世紀念堂ではなく九份のものにした。赤い提灯がたくさん並んでいる風景は昼間でもノスタルジックなんてありふれた陳腐な言葉が思わす口をつくほどだった。その雰囲気を絵葉書で友人たちに伝えたいと思った。
 茶店を入れた写真を何枚か撮ったが、人が多すぎるほど多いのと道幅が狭いために好みの角度で撮ることは困難だった。いわゆる「自撮り棒」を人混みの中でも平気で駆使している多くの人たちが九份にもいた。さらなる混雑を引き起こしても平気でいられる図々しさがあったとしても、絵葉書と同じアングルでの撮影は難しいだろうと思った。


人の多さと道幅の狭さが伝わるでしょうか。


 帰国後従姉のところへこの旅のお土産を届けに行った。叔母や従姉の娘たちにもお土産を渡したあとでこの旅で撮った写真を見せながら旅の様子を伝えた。従姉の二人の娘のうちの妹のほうが九份の写真と大ヒットした日本のアニメーション映画に出てくる場面のモデルとなったというところの茶店で買った絵葉書を食い入るように見ていた。彼女はそっくりな景色が出てくるその日本のアニメーション映画を観ていたようで、「本当にあるんだ・・・。」とつぶやいて隣にいる自分の姉のほうを見た。映画の中の景色とそっくりな場所が実際にあることを知って心から驚いたつぶやきだった。彼女の表情とつぶやきからその映画がいかに人気だったのかを改めて知らされた気がした。大ヒットしたというそのアニメーション映画はまだ観ていない。観なくてはというよりは観ておこうかと思っていて今日に至っているというのが正直なところだ。


茶店で買った絵葉書。映画名が堂々と入っています(苦笑)。


 その一方で台湾映画にもここ九份が舞台となった大ヒット作があるということを仄聞した。1989年に大ヒットしたというその台湾映画はDVD化されているのなら近々観てみようと思った。観るのならこちらを先に観てみたいと思った。アニメはちょっとという気持ちがどこかにあるからかもしれない。
 人の波に押されて歩きまわり、パンフレットなどと同じ景色を目にするだけでも九份は十分楽しいところだった。次回は日が暮れてから訪れて、昼間とは異なる景色を味わったみたいと思った。牛歩並みの速度でしか歩けないくらいの混雑でも夜景を観るために是非再訪したいと思った。


これは土産物屋で入手した絵葉書。夜に再訪してこの景色を観たいと思いました。


 九份が鉱山として栄えていた頃の様子を知ることができる黄金博物園区と呼ばれている自治体によって整備された散歩コースが車で15分ほどの集落にあるらしい。もし再訪できる機会を得たら、事前にある程度下調べをしてそのコースも歩いてみたい。九份を再訪するなら下調べついでにやはり映画も観ておくべきだろうか。アニメに抵抗があったとしても・・・。



追記:
中正紀念堂を訪れた話は「ついにそこへ・2」というタイトルで書いております。今回の話の九份を訪れた翌日の話です。合わせてご笑覧ください。



「おとなの青春旅行」講談社現代新書