

『旅先で食べたもの・13』
旅先で食べたものでまだ書いていないものは何があるだろうと思って、これまで書いてきたものを振り返ってみた。既に12作書いていた。随分と書いてきたものだ。「旅先で食べたもの」はもうシリーズと呼んでも差し支えないだろう。
1作目は台湾の朝ごはんについてであった。台湾の朝ごはんとイギリスのフィッシュ&チップスに関してはこれまで二回ずつ書いている。シンガポール(チキンライス、フィッシュヘッドカレー、ラクサ)、タイ(グリーンカレー、カオソーイとカオモックガイ)、韓国(ビビン麺)、加えて台湾の牛肉麺、イギリスのスープヌードルと続いている。こうして書いてきたものを列挙しているうちにまだ書いていないものがいくつも思い浮かんできた。
これまで書いてきたものそれぞれに興味のある方、未読のものがある方は素敵なイラストのアイコンを頼りにこのサイトを是非遡ってほしい。イラストは全てトラベラーズノート側の担当のデザイナーさんが毎回、恐らく空腹を抱えながら、本文を読みたくなるように描いてくださっている。
香港は訪れた回数でいえば私の中では三本の指に入る旅先である。香港でも海鮮料理をはじめとして現地のものをいろいろと食べてきたが、最も食べたものはお粥ではないだろうか。真っ先に書いてもよかったお粥について今日まで書いていなかったのは自分でも意外だった。
初めて香港を訪れたのは1992年。もちろん返還前で、降り立った空港は啓徳空港であった。到着翌朝、香港での初めての朝食はお粥にしようと思い、滞在していた九龍の街中を歩いた。特に店名はなく、“粥”というサインもあったかどうか怪しい、湯気が外まで出ているお店の前で足が止まった。いまでこそ、香港のお粥屋はこうでなくっちゃとニンマリして中へズンズン入っていくが、日本ではきっと足を踏み入れないその佇まいにここは大丈夫だろか?と思い、少々立ちつくしてしまった。きっと困惑した表情を浮かべていたと思う。
お店で食べるなら相席は当たり前とその存在が訴えている四人でいっぱいになる丸いテーブルが一つと、二人用のテーブルが一つに調理場だけのお店だった。床は打ちっ放しのコンクリートで、壁には赤い字で四字熟語のように漢字しか並んでいないメニューが掛かっていた。漢字も我々日本人から見たら古い字体のもので、理解が難しいものが多かった。メニューの漢字の下にお粥のサイズと値段もあった気がする。記憶にないが・・・。
これは香港で見つけた絵葉書です。漢字から判断して麺のお店のようですが、初めて入ったお粥のお店の雰囲気をお伝えしようと思い、載せてみました。
ここまでではありませんでしたが、その佇まいは近からず遠からず・・・でした(苦笑)。
旅慣れるとこういうところで小腹を満たすようになるんですよね(笑)。
初めて食べたお粥の具は流石に覚えていないが、ちょうど良い塩加減に感心してあっという間にたいらげてしまった。お粥というと体調が優れないときに食べるものというイメージが強かったが、そのイメージがものの見事に覆った。これで十分一食になり得たし大変満足した。酒飲みなので、
このタイプのお粥だったら飲んだ後で小腹が空いたらラーメンより身体に優しそうだしずっといいかもしれないと思った。
翌朝からは現地の人たちの食べている様子を横目でチェックする余裕が少し出てきた。お粥は真白なので、近くで食べている人の中の具は流石に見えなかった。想像力を駆使してメニューに踊っている旧字体の漢字を睨み、オーダーした。
偶然だったのだろうか、後に定番中の定番であることを知るピータンと豚肉が入ったものが運ばれてきた。好き嫌いが分かれるピータンだが、幼い頃から家族で中華料理を食べに行くと、前菜の盛り合わせに必ずあり、真っ先に自分の分を取り分けるほど好きであった。ただし、そのピータンは常温のものだったので、熱々のお粥に入って温まったピータンとはどんなものかと少々警戒した。煮込まれたものではなく、後乗せのトッピングだったのでそんな心配は杞憂に終わり、その後はお粥屋での私の定番となった。気に入るとその漢字での表記が、“皮蛋痩肉粥”であることを知り、漢字ばかりのメニューから見つけ出して指を差せるようになった。
お粥の具は見えなかったが、現地の人たちがお粥にトッピングしている、これも後にそれぞれの名称を知ることになる、油条とサイドディッシュの腸粉が気になった。腸粉は飲茶で出逢う前にお粥屋で出逢った気がする。いまとなっては定かではないが・・・。
揚げパンといったほうがその形状が伝わるであろう油条は、大嫌いだった小学校の給食を思い出させた。そのまま一口かじってみると、油の味しかしなかった。しかし、お粥にしばらく浸して柔らかくなったものをお粥と一緒に食べると、何ともいえない食感があり気に入った。
話は少々逸れるが、ローストビーフの付け合わせにヨークシャー・プディングがある。先日行きつけの神楽坂のパブで日曜日のブランチ限定のローストビーフを食べているときに、ヨークシャー・プディングを油条の代わりにお粥に入れても美味しいのではと思った。なるほどと膝を打ってくださるトラベラーがいることを願いたい。香港にはイギリスからの駐在の人たちがたくさんいるはずだから、テイクアウトしてきたお粥を家で食べる際にやっているかもしれない。乱暴に括ればこれもある意味イングリッシュ・ブレックファストか。パブなので〆の一品ということは難しいとは思うが、今度パブに行ったらシェフにこの話を振ってみよう。
話を戻す。クレープのような腸粉は細かく刻まれたチャーシューやプリプリとしたエビが入ったものを食べた。これは香港を訪れたときに、飲茶のときにも必ず食べるようになった。腸粉の具が油条のものがあるのを知るのは、再訪を重ねに重ねたずっと後になってからだった。
休暇で香港へ行く際は母親が一緒であることが多くなり、朝食はお粥となると、九龍の広東道にあるスイーツで有名な糖朝へ行くようになった。毎度変わることはない“皮蛋痩肉粥”の他にもう一品と思ってメニューを見ると、腸粉の具が油條のものがあった。これは美味しそうと思う前に面白そうだと思って注文した。
これは糖朝の“皮蛋痩肉粥”です。丼に近い大きさの器にたっぷり入っています。
油条は腸粉で巻いたものをこのときオーダーしたのでお粥にはトッピングしませんでした。
油条が具の腸粉です。タレがかかっていますが、奥に微かに見えるマスタードとソース(多分)のつけダレも一緒に出てきました。お好みでということだったと思います。
美味しかったかどうかの記憶はありません。記憶にないということはそれほど美味しくなかったのではと思います(苦笑)。
香港を訪れて朝食をお粥にすると、都度迷わず“皮蛋痩肉粥”を選んできた。飽きはしないのだが、たまにしか訪れることができない旅先でまた同じものを食べてしまったということを食後に感じなくもない。次回は一回もしくは二回“皮蛋痩肉粥”を控えて、他の具のものを食べてみようと思う。もしくは、プレーンのお粥を頼んでおかずとして点心的なものを数品取ってみても変化に富んでいいかもしれない。実現できればこのシリーズにもう一話加えることができるかもしれない。
その店構えから入るのをちょっと躊躇うようなお粥のお店は探せばまだ香港にあるのだろうか。外食が基本の土地柄だからあると思うが。そこには絶品のお粥がありそうな気がする。次回香港を訪れる際の旅の目的がもう一つできた。
追記:
1.これまで香港についていろいろと書いてきましたが、私が一番好きな話を一つといわれれば「私の発作的週末旅行」を挙げます。今日まで結構なアクセス数をいただいております。未読の方はどうぞご笑覧ください。
2.ロンドンへ2012年に行った際に、ホテルの朝食ビュッフェで“皮蛋痩肉粥”を自作していました(苦笑)。きっとパブ巡りの際のパブめしに胃が疲れてきた頃だったのではと思います。お粥自体の味はプレーンというのはこういう味をいうのだという味でした(苦笑)。
3.都内で“皮蛋痩肉粥”が食べられないものかと思ってインターネットで探しました。ありました(笑)。油条は最初から入っていて、刻んだザーサイも入っていましたが、悪くありませんでした。
お店は八重洲にあり、ジャンボ餃子が有名な老舗でした・・・とだけ記しておきますので、興味のある方は是非。