

絵画とコーヒー
店内にはオーナー(ハイカラなおばあさん)が世界中を旅して集めた数々の調度品が飾られている。
薪ストーブもあって、家具はすべてロココ調。
客の年齢層も高く喫煙可能な大人の雰囲気だけに、母は激怒したが私はこの喫茶店がとてもお気に入りで、高校生の夏休みだけアルバイトをさせて貰っていた。
コーヒーの味はまだわからなかったけど、ここにはわけもなく心惹かれる絵が飾られていた。
空が広く取られた構図で、ピンクと紫色のグラデーションの夕暮れに上弦の月が小さく輝いている。
当時はこの場所がフランスのパリであることも知らなかったけど、高校を卒業して上京し、何年経っても忘れることが出来ないほど虜になった美しい絵だった。
その後、世の中にインターネットというものが普及し始めてふとこの絵のことを調べて見たら、ミッシェル・ドラクロワ:作の『夜のノートルダム寺院』というタイトルのシルクスクリーンであることが判明した。
あれから20年経った今も『夜のノートルダム寺院』は店内の同じ場所に飾られている。
ついでに言うと、この喫茶店は私の母が高校生だった頃から存在する老舗だ。
人生の連れであるトラベラーズノートを手にしながら、母と一緒にこの絵の前に再び座る日が訪れるとは思いもせず。
喫茶店は何も変わっていない一方で、自分はすっかり食に煩い人間に成長し高級洋食器メーカーのカップに丁寧に淹れてくれるコーヒーの味も少しはわかるようになった。
次は本物のノートルダム寺院を眺めながらトラベラーズノート片手に美味しいコーヒーを飲んでみたい。
そうだ。
行きたい国をイラストと共に描いている My Bucket List Travels にこの夢をつけ加えようではないか。