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『懐かしい味・2』

『懐かしい味・2』

2016/09:STORY
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 7月に行われたトラベラーズノートの香港でのイベントは4月に行われた台北でのイベントに続き大変な賑わいだったようだ。SNSでイベントの様子をリアルタイムでチェックする度にその盛会振りが熱気とともに伝わってきた。
 香港というところはトラベラーにとって数ある旅先の中でも特に思い出深く、そして強く印象に残る旅先の上位にくるのではないだろうか。 初めて降り立った外国が香港だったというトラベラーは結構いらっしゃるのではと察する。振り返って見ると私にとっても香港は思い出が多いところであり、ここでも香港に関する話をいくつも書いてきた。トラベラーズノートのプロデューサー飯島淳彦さんが最近では珍しくたった二日の間を置いてアップしたブログはどちらも香港に関してのことだった。イベントが大成功だったことが手伝ったとはいえ、彼にとっても香港は大変思い出深いところの一つであることが窺えた。
 あるものを目にしたり、手にしたときにその土地を思い出したり、目にしたり、手にしたりが現地だったりすると、その土地を訪れていることを実感出来るものがある。トラベラー各位はPop-Panという葱のクラッカーをご存知だろうか? これは私にとって“イコール香港”的なものの一つである。

 
あ〜これかぁ〜と思った方も多いのでは。箱がこのデザインになってから全体的に味が少々薄く、上品になった気がしました。世界的なマーケットを意識して“塩分控えめ”にしたのでしょうか・・・。


 Pop-Panとの出逢いは航空会社に勤めていた頃に機内で販売した免税品の売上を管理していた1992年だったと思う。乗務で成田にやってきた香港の乗務員が自分の機内での売上を預けにきたときに、“これ食べる?”的な感じで一箱くれたのだ。当時は現在の緑色の箱ではなく濃い茶色だったのを覚えている。早速職場のみんなで食べた。私にとっての初めてのPop-Panは“塩気はちょうど良いが葱の風味が強くて不思議な味”だった。しかし、すぐに気に入った。
 仕事や休暇で香港を訪れる頻度が上がるとともに、お土産や自分のためにPop-Panを購入する頻度も上がった。香港での購入場所は決まって
街中に点在しているトラベラー各位にはお馴染みのスーパーマーケット“Wellcome 恵康”のどこかだ。(漢字表記を見ると“Wellcome”の綴りに何となくChinese的なものが感じられる)“PARKn SHOP 百佳”でも購入していたかもしれない。
 Pop-Panを手に取ると目に浮かぶのは従姉の娘の一人だ。私が香港を頻繁に訪れるようになった当時彼女はまだ小学生だったが、ある日お土産に持っていったPop-Panは後に“ねぎクラッカー”と呼ぶほどに彼女のお気に入りとなった。幼いのに日本ではちょっと味わえないその美味しさが分かるなんてと感心したものだった。以来購入の際は職場の分、お土産、自分の分に加えて彼女の分も一つ買い物かごへ必ず入れるようになった。叔父と叔母もいるのでその従姉のところへは旅先のお土産をいまでも届ける。彼女は私が香港へ来たなと感じられるものを手にしたときに、幼心に私の今回の旅先は香港だったのだなと感じていただろうか。
 中国から・・・それが北京からか上海からだったかそれとも両都市からだったか忘れてしまったが、2000年頃にデトロイトへの直行便のWBC(ワールド・ビジネスクラス。侍JAPANの野球ではないので念のため)と呼んでいたビジネスクラスでチーズをサービする際に添えるクラッカーをこのPop-Panに変えたことがあった。その当時アメリカとアジアを往復するビジネスクラスのチーズのサービスに添えるクラッカーは欧米製の微かに塩味がするものを使っていた。中国発はせっかく中国産(実際は香港産)でいいものがあるのだからと当時のアメリカ人の上司がPop-Panを使うことを決めた。すぐに値段を調べるように指示されたのを覚えている。Pop-Panは手土産として結構頻繁に職場に届いたのでそのアメリカ人の上司から我々日本人の社員まで慣れ親しんでいた。私は2001年に9.11のテロの影響で退職し、その会社も後に競合他社に買収されたので、Pop-Panを添えたチーズのサービスはいつまで続いたのだろうかとこの話を書きながら思った。
 最近は駅ビルとはいわず駅ナカというのだろうか、その駅ナカに輸入食品を扱う店が駅によっては数店入っている。一日隣町の駅ナカの一店にPop-Panが置いてあるのを見つけた。“店長イチオシ”というようなポップが付いていた。すぐになくなるだろうと思っていたが、約三年たった今日でもまだ陳列棚に並んでいる。それも、初めてそのお店で見たときよりも数倍の量が・・・。何かの切っ掛けでふと香港が懐かしくなったときに、まだしばらくは手に取ることができそうだ。
 Pop-Panが大好きな従姉の娘はいまではすっかり大人になり、卒業旅行で香港に行ったという。ということは、Pop-Panと私の付き合いも20有余年ということになるのだ。先日彼女が母のところへ遊びにきた際にPop-Panを一箱渡した。ちょうどお酒を飲んでいるときだったのでアテにいいと思ったのだ。いまここで開けてもいいし、持って帰ってもいいよと伝えた。懐かしいという声とともに彼女が手に取ったそのPop-Panは結局その場では開封されることはなかった。
 大事そうに持ち帰ったPop-Panで、楽しんで食べた子供の頃や大人になって初めて香港を訪れたときのことを思い出したり、次の旅に思いを馳せたりしてくれたらいいなと思った。