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『再会・7』

『再会・7』

2015/04:STORY
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 「あにき、21:30でOK? ショーツはNG。」と2014年の11月末から12月初頭にかけて約7年振りに再訪した台北に滞在中に連絡を受けた。
 連絡をくれたのはAnn。Annはかれこれ20年以上家族同然に可愛がって貰っている航空会社の頃の先輩Sabrinaの娘で、彼女のことは彼女が中学生の頃から知っている。(私が台湾の話を書くとこの二人とVincent & Johnny が頻繁に登場する。行けば必ずこの中の誰かとつるむので。トラベラー各位にもすっかりお馴染みだろうか。)Annはカナダでの高校時代に日本語のクラスを取っていたので、私のことを日本語であにきと呼んでいる。以来こちらから送る絵葉書等のサインも英語表記の名前ではなく、平仮名であにきと書いている。
 現在は外資系の企業で責任ある地位に就いている彼女に指定された場所は、マンダリンオリエンタル台北のバー。2014年5月にオープンした所謂5つ星のホテルの中にあるバーだ。
 マンダリンオリエンタルへは、そのとき滞在していたハワードプラザの最寄りの大安駅から地下鉄で目指した。降りるべき駅をメモしたものを忘れてしまい、大安駅で駅職員に訪ねた。英語が辛そうだったが、親切に方々に電話をしながら調べてくれた。ここでもまた台湾の方に親切にしていただき嬉しくなった。最新の高級ホテルはある世代にはあまり関心がなかったのかもしれない。地下鉄が地上に上がり、南京東路駅に入って行く途中で、以前仕事で訪れたときに何度か滞在したブラザーホテルが車窓から見えた。最後に滞在したのは恐らく15年前で、今日まで再訪していないが、以来つい最近まで毎年バースデーカードを送ってくれた。このホテルについてはいずれ書きたいと思う。
 南京東路駅からマンダリンオリエンタルまでは大した距離ではないので徒歩で行った。日曜日の夜で辺りは結構暗かったので、地理が上手く掴めず、途中で二回道順を尋ねた。暗闇から突然立派なそれと分かる建物が現れここだと確信した。


 ジーンズを履いていたが、襟のついたシャツに黒いジャケット、靴はトラベラー各位にはお馴染みのNAOTのニルス。その格好で入り口近くにいたホテルスタッフにバーへのアクセスを尋ねた。






さすが五つ星ホテル。タクシードライバーに行き先を告げる際に使うカードもしっかりした紙が使われていました。印刷も明瞭です。これは帰りに貰いました。ちなみにスーツケースに貼れるステッカーはありませんでした。ちょっとがっかり。(笑)。


 目指すバー“MO”は3階にあった。バーにはすぐに辿り着いたが、凝った作りなので、入り口が分からずぐるりと周ってしまった。
 バーに入ると左手にバーカウンターがあり、既に二人は到着して飲んでいた。ワイワイガヤガヤと挨拶を交わし、着席してグレンリベットのハーフロックを頼んだ。どこのバーでも、特に初めてのバーでは必ず最初にこれを飲む。スコッチも水も同じ量で作られる筈だか場所によって味が微妙に異なり、目の前のバーテンダーの力量を測る自分なりの物差しである。美味しければ飲み続けるし、今ひとつだったら一杯で止めて違うものを頼むようにしている。
 さて、台北の五つ星ホテルにあるバーのものはどんな塩梅かなと味わう間もなく会話が始まった。約7年振りの再会のスタートだ。普段SNS等で頻繁にやり取りがあるとはいえ、実際に会って話すことには敵わない。懐かしくていろいろな話をした。しばらくすると、目の前にシャンパングラスが並び、シャンパンが注がれた。このバーの常連であるAnnの顔が利いたのか、バーからだった。再会という状況を察したバーの粋なサービスだった。台北という大好きな旅先での懐かしい人達との再会に花を添えて貰ったような気がして嬉しくなった。


再会を祝して乾杯。Annの顔でこのシャンパンはお店からでした・・・多分(笑)。
そしてこれは“やや大酒”の始まりでした(汗)。



 ありがたくいただいたシャンパンを飲みながら話していると、バーテンダーの一人が、フルーツパンチ用と思われる大きな器を運んできた。ホテル内の何処かの宴会場から下げてきたのだろう。お酒もいい具合に回ったところだったので、そのバーテンダーに、「その器にシャンパンをなみなみと注いで、このお店にいる人達みんなで回し飲みをしよう」と言ったら、みんなが笑ってくれた。都内のバーで普段やっているように、話の合間に適当にバーテンダー達を会話に巻き込んだりして、台北でもいつも通りのバーの楽しみ方をした。話の途中でSabrinaの口癖である ” You know something ? ” が出た途端、打ち合わせをした訳でもないのに、Ann と同時に ” I don’t know! ” と答えて大笑いしてしまった。話は本当に尽きず、永遠に続きそうだった。楽しいと心から思ったと同時に、こうして異国で温かく迎えてもらえる自分の境遇に感謝した。旅先でないと見られないもの、旅先でないと食べられないものがあるが、旅先でないと会えない人たち・・・というか、旅をして行かないと会えない人たちもいるのだ。年齢を重ねたせいか、見るものや食べるものよりも懐かしい人達と会うことのほうが大変貴重に感じられるようになった。
 楽しくて嬉しくて、高級ホテルのバーであることを忘れて、結構飲んでしまった。グレンリベットを続けた後で、気が付くとこれも大好きなI.W.ハーパーの12年をロックで飲んでいた。その場は「あにきはゲストだから」とAnnが払ってくれた。3人分だったので結構な額だっただろう。翌日の再会(この翌日に「再会・6」に書いた食事会があった)を約束して心からリラックスできて楽しんだ再会はお開きとなった。
 ホテルへの帰えるタクシーの中で、散財させてしまったAnnにお礼をしなくてはと思った。帰国後立て続けに観た台北特集のテレビ番組には必ずと言っていいほど、このマンダリンオリエンタルが取り上げられていた。その豪勢な建物が画面に現れてくるのを目にする度に、随分高い酒を飲んでしまったと反省し、必ずお礼をしなければと思った。何を贈ろうかと悩んだ結果、私が使っているのと同じブラウンのトラベラーズノート(レギュラーサイズ)に名前を入れて贈ることにした。高級ホテルのバーで大酒を飲んで支払わせてしまった“ダメあにき”を少しでも許してもらおうという気持ちも込めた。Sabrinaには、一つ持っていた未開封・未使用のキャメルのトラベラーズノート(レギュラーサイズ)を贈った。


届いてすぐにお礼のメッセージとともにAnnが送ってくれた写真です。 
爪を先にカスタマイズしたのでしょうか(笑)。
気に入ってくれたようで何よりでした。



 次の再会は、同じバーの同じカウンター席で、シャンパングラスの前にそれぞれのトラベラーズノートを並べてみたいと思った。ノートの経年変化も楽しみだが、それぞれの経年変化も楽しみだ。ただし、この貴重な縁だけは経年変化して欲しくないと切に思った。