

『2012.5.21』
■望 ~旅の始まり~
早すぎる…と、その都度思うが実際はそうでもない。逸る気持ちから予定よりも早く起床。最寄り駅へかなり早い時間に着いてしまう、旅の朝。しかし、そこから新幹線のターミナル東京駅まで出てしまえば、電車好きな自分は途端にテンションが上がり、撮影やら観賞に明け暮れて(朝ですが)、瞬く間に発車時刻となるのでちょうどいいといえばちょうどいいし、ある意味予定通りといえば予定通りなのである。
このとおりなかなか前へ進まない。目的地へ辿り着くまでが長い。もはやメインが旅先なのか道中なのか自分でもわからない。新幹線に乗車した時点ですでに50枚を超えている写真。それでもテツではないと言い続けているがそろそろ限界か。
まずは車体。外観のフォルムに始まり、内装、機能性をひと通り確認。
次に車窓。東京脱出劇から、幼少期の夏休みの思い出風景、目的地までの経過。
そして車内。斜め前の乗客が読んでいる小説や、仕事の書類に見入る出張中と思しき会社員、家族連れのお母さん。とりわけ奔放なお子様とすっかりお休みモードに入っているお父さんの面倒を見るお母さんの24時間ALSOKっぷりには感服。母という存在の偉大さを痛感すると同時に、そんな母という立場となった友人たちへ尊敬の念を抱く。そしてまた、自分の生い立ちからこれまでを振り返ってみたり、車内販売のコーヒー購入を計ったりと多忙極まりない。
■黎明 ~健全な夜明けのコーヒー~
この通り全く持って寝ている時間も本を読む時間もない。それどころか食事をする時間もない。忙しなく昆虫並みに落ち着きのない自分が唯一静止するのはコーヒーを飲んでいる間。新幹線のコーヒーがあんなにも美味しいのは、おそらくそういった窓の外の景色やそれに伴う心情がスパイスとなっているからではなかろうか。
■安心感
トラベル(宿泊)第一夜にしてトラベル(ノート)残りわずかとなっても余裕でいられるのは、そう!旅先が神戸だから。トラベル万歳、ナガサワ万歳!
■黄昏時
本来の目的は夏の高校野球観戦。言わずと知れた甲子園球場である。その代名詞であった蔦の葉はまだまだ若いため黄緑色で弱々しく、かつての姿にはほど遠い。改装当時、球場全体を再び覆うまで10年はかかると言われていたが、それを上回る勢いを感じた。そして何より清潔感に溢れ、老若男女が安心して楽しめる細かな配慮がなされたリニューアル甲子園。
もちろん気取ってばかりなわけではなく、温故知新。ひとたび中へ入れば、以前と変わらぬ光景が広がる。名物カレーのスパイシーな香りから、焼きそばのしょっぱい匂いに、たこ焼きの香ばしさ、かき氷の甘いシロップの香りに、お洒落に敏感な若者たちの爽やかな制汗剤の香り。多種多様な香りと同様、喜怒哀楽に富んだ悲喜こもごもにこだまする歓声と悲鳴に応援団の振動…。球場全体が揺れているのだ。それらを身体全体で感じ、満喫できるのがここ阪神甲子園球場。決してテレビ観戦では味わえない、他の球場でもなかなか味わえない、野球の素晴らしさ、人間の素晴らしさ。土壇場に強い人弱い人、そして奇跡…グラウンドに人生すべてが現れる、これが甲子園球場。ぜひ一人でも多くの皆さんに体感して頂きたい。
■衝撃
さあ明日も旅を満喫しようと、整理するため旅行鞄を開くとなんとそこには新幹線乗車前に購入した朝刊が…。もちろん未読。そんな自分に肩を落とし、テンション上がったり下がったり。大人が子供に戻る瞬間。移動時間の長さもあらゆる姿の自分も、旅の醍醐味なのだ。
■ほっと珈琲
それらすべてを実感するのが帰りの新幹線の中。忙しない毎日に嫌気がさしていたはずなのに、見慣れたビルの群れが車窓に映り始めると、なぜだかほっとした。そう、なんだかんだでやっぱり生まれ育った東京が好きなのだ。
了