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MAXとき313号

MAXとき313号

2012/07:STORY
うずしお


 持ち物はノート1冊にペン1本。向かうは新潟、HARD OFF ECOスタジアム新潟。

 9:12-10:49
 新潟直通。通常より44分の短縮。久々のMAX乗車に沸き。永遠の近未来車、いつ見てもSF調の階段に心躍らされ、そのうえ売店のある5号車指定。キヨスクの3分の1程度のわずかな空間でありながら、その横に車掌室・休憩室も併設されているため、4号車の座席数は数えるばかり。いつかこの4号車の座席を貸し切りたいと目論みたコメットうずしお。月の表と裏ほどの温度差のある1階と2階。1階に着席した今回、その夢は確固たる近い将来の目標に。昨夜、尋問なしの強制座席指定を下した御茶ノ水駅員に憤りを感じつつ腰を下ろした半地下の1階も、かつての詰め所眺望に心わずかばかり和やかに。

 新幹線乗車時、度々の始発 早朝発のため持参朝食も、本日は9時過ぎということもあり、朝飯を35年間抜いたことのないうずしおは起床直後に済み。ほぼ狙いどおり早めの東京駅着に彷徨った構内、特にグランスタで目移りする誘惑の嵐に会い後悔。さらに追い打ちをかけるC(席)男のシュウマイしゅうに目眩を起こす。早速休憩室貸し切りか。ちなみに2階席は座席シートも異なるカースト制度。しかしノンストップ新潟ちゃん、実に快適。懐かしの車内誌『トランヴェール』に目を通すと、季節限定のかもめの玉子を発見。なんとダイス栗がふんだんに!! さすがにnot1粒。大きなトゥインクルチョコレート実現とはいかず。

 新幹線乗車だけでトラベラーズノート600文字を超えてしまったたうずしおとは裏腹に瞬く間に到着した新潟。明らかに銚子(市営野球場)よりも近い新潟。「行こうよ新潟」、行って来ちゃったよ新潟。変わらずの新幹線テンションに帰りの新幹線どころか、駅から球場までの道のりも不明瞭なまま足を下ろす。

 ここが新潟。
 禍々しい都会のような遮るものがない澄んだ空気のためか強烈な陽射しに照らされている。気象情報は正しかった。

 真夏日。

 フェーンな模様。
 駅前のロータリーに並ぶ列はバス停のひさしをなぞっていた。これまで守りとおしてきた操、ここまできてそれもまさかの新潟で紫外線照射か。しかし無駄に場数は踏んでいないため、もちろん対策にぬかりはない。

 駅から正面に伸びた大通り。不慣れな案内所で入手した情報では球場最寄り停留所は「スポーツ公園」とのこと。
 う「エコスタジアムに行きたいんですけど」
 案「えーっと…」と今や葬られた言葉に近いオフコンを操作する案内人。

 案「この下のロータリーを…ちょうど反対側ですね。」
 賑わっているはずの本日、初めての問いだったのか、球場であることを確認してくる案内人。

 案「ハード…」

 う「コア新潟」
 案「オフ新潟」

 兼ね兼ね口をついて出そうになったそれが、肝心のところで放たれたうずしお。「ありがとうございました!」と毅然とした態度で颯爽とあとにするうずしお。詭弁家うずしお。

 時刻表を見るとたった今出たばかりで、20分ほどの待ち時間が発生。待つことが苦手な行き急ぎせっかち大魔王うずしおは、当然別のバスを選択。土地勘が皆無で
もこの強行姿勢に変わりはない。
 2つほど手前の停留所まで同じ経路のバスに乗り込む。駅で垣間見た鳥瞰図に近い地図では、この大通りを真っ直ぐ行き、途中右手に折れるようだったため、分岐点となりそうな「南長潟」とやらで下車することに。ここまでの様子でご理解いただけるように、すべてがだいたいの骨頂が旅先である。

 直線の大通りは整備されており、左右にはヤンキーの代名詞コンビニエンスストア、娯楽の代名詞銀球処、別の洗練された空気をまとおうとする小洒落た床屋に喫茶室が並ぶ。郊外の大きな駅でよく見られる光景の中、お約束の峠の茶屋的な蕎麦屋を発見。多くは大きな水車を回しており、こちらも例に漏れずそれを所持していた。幼少期楽しみにしていた、毎年夏休みに訪れた宮城県を思い出し、目を細める。

 嗚呼、和む。


 まどろむうずしおの目と耳は、下車直後、確かに球場の空気を察知していた。姿はまったく見えども、「大体、右」で道路を横断。「大体、真っ直ぐ」得意の大体で突き進むと、前方に、散々テレビ中継で凝視した見覚えのある照明灯を発見。ちなみにこの時のうずしおの胸中会話は「あった!ツインバードN!」。翼のような照明灯がそう思わせたのだろうが、実際はハードオフエコスタジアム新潟。NはビックNであり、長野。そしてツインバードは安価にして高性能を目指す家電製品の会社である。

 「どこでも弁天さまは人気者ですなぁ」。途中、大量の乗客が降りていった弁天橋という停留所とは異なり、降車客はボタンを押したうずしおと初老の男性1人のみ。この延々と続く道を歩くは中堅女のうずしおただ独り。気休めに引かれたとしか思えない白線に、人が歩いてよいものかと疑念がわきつつも、他に選択肢はなく、とりあえず前方遙か遠くに見えるそれを目指す。ようやく脇道が現れ、あぜ道に沿うように整えられた道路へ移る。

 より近くなった球場の右手に、恐らくサッカースタジアムと思われるハイカラな建物が見えてきた。金木犀の香り漂い、2匹連なるトンボが舞う中、足取りも軽くなる。ここまで来るとさすがに同行者が増える。といっても、ウォーキング中の男女2人のみ。


 うずしお、見参。


 今年はハードオフ殿ということで全面に。この制度、球場造形を堪能したい身としてはどうも腰が据わらない。

 しかし


 想像どおりの美しさ。


 嗚呼、来てよかった。


 が、直後気分を害する出来事が。

 「ペットボトルのキャップはこちらで回収させていただきまーす」

 はいぃ?

 『相棒9』公開まで3週間をきりましたよ、ミッチー君。「今回もミッチーさんなんだね」「うずしおさん、相棒だからそうそう変わりませんよ」「ハハハ…そっかー、考えてみれば当然…」

 じゃない!!

 方芸人でもない!!!


 意味不明に理解不能な状況に罵詈雑言浴びせようともここは憧れの新潟。もしや飽き飽きのエコ的観点?

 う「あの…理由を教えてもらえますか?」
 入「えっと、ペットボトルを投げ込まれるお客様を出さないために…」

 “投げ込まれる”のはお客様ではない。ちなみに“トラブルを起こされる”のは単なる乗車している人であり、お客様ではないので各鉄道関係者殿忌憚なく処置を。そして、ペットボトルを投げ込むのは蓋の有無とは無関係なうえ、そんな客は今時流行らない。

 視野を広げようと周りに目をやると、皆よぼよぼと蓋のないペットボトルを持っておぼつかない足取り。

 う「先日の巨人戦でもそうだったんですか?」
 入「…巨人戦では行われなかったみたいですが」


 紳士たれー!!

 大人なのでおとなしく蓋を手渡し、とき313号の売店で安全確保のために珈琲を覆っていた小さなビニール袋が大活躍することに。とき313号の株ますます急騰である。対する波暴落。けれども見上げれば新潟の広い空にエコスタジアム。快適な厠を経て心もロンダリング。

 照りつける陽射しの中行われたデーゲームは延長に突入したおかげで、24時間の中で一番美しいと思われる夕暮れ時のエコスタジアム新潟を拝め、胸いっぱい、シャトルバスいっぱいで球場をあとに。発車6分前停留所着の土産1品購入の2分前入札の1分前乗車で、奇跡の200系乗車。往路+44分のはずが、さらなる耽りで気づけば大宮。やはり新幹線は時空を超えるらしい。アイラブ新幹線、アイラブロッテ、アイラブエコスタジアム新潟。人工と自然の美しさが融合した、ハードでソフトな夕日が胸を貫いた弾丸ツアー。VIVA!