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『訪れた証・3』

『訪れた証・3』

2012/04:STORY
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 『Barにて・1』に書いた酒場が面白い時期である従姉の子供達と久し振りに会うことになった。今回は、まだ未成年の末っ子の女の子が参加するので、バーはNG(一応は)。酒場に行きたい上の二人も満足出来て、未成年も入れるところを考慮したところ、ハードロックカフェがいいと思い、三人に提案した。三人とも行ったことがないので是非というので、日時とともに即決であった。

 六本木にある東京店には顔馴染みのバーテンダー君がいるので、年に数回はお酒を飲むだけのために行っていたが、ここ数年はご無沙汰だった。従姉の子供達を連れて行く前に、たまたま六本木に用があったので、ついでにちょっと寄ってみた。
 バーカウンターの向こう側で、そのバーテンダー君は元気にシェイカーを振ってカクテルを作っていた。たまたまバーが空いていたことと、お互いに久し振りだったので、話が弾んだ。ちょっと一杯のつもりが結構グラスを重ねてしまった。バーテンダー君に、近々従姉の子供達と来る旨を伝えて帰途に就いた。

 忙しくてなかなかアメリカへ遊びに行かれない頃は、六本木のハードロックカフェへよく行った時期があった。六本木という土地柄欧米人の客が多く、店内に居ると何だかアメリカにいるような気分になれた。バーでは最後にまとめてのお会計もキャッシュオンデリバリー(代金引換払い)でもOKだ。一度だけ、飲み物の代金を都度クレジットカードでキャッシュオンデリバリーをしている外国人達を見たことがあった。きっと現金の持ち合わせがその時なかったためだろうが、世界中に支店があるお店でも、お酒の値段は東京都心の価格なので、自分の国で普段と同じ量を飲むには、クレジットカードで支払わなければならないくらいの金額になったのではと思った。その時までにあちらこちらのハードロックカフェを訪れてはいたが、目にしたことがない光景だった。日本に居ながら外国を見た気がした。

 航空会社に勤めていた頃、機内で売った免税品の売り上げを管理していたことがあった。フライトの出発前や到着後に客室乗務員が自分の売り上げを僕のところへディポジットしに来た。窓口のカウンターの上に、一緒に働いていたスタッフがちょっとしたものを飾り、殺風景にならないようにしていた。僕はそこに、その時までに訪れたハードロックカフェの都市名が入ったピンを付けたロンドンのハードロックカフェで買ったキャップを置いた。こちらで提出されたお金を確認して、レシートを発行するのを待っている間に、キャップに付いているピンの都市名をチェックしている乗務員が何人もいた。次のフライト、もしくは自分が休暇で出掛けて行く先の都市名のピンがそこにないと買ってきて付けてくれた人達もいた。約3年の間にかなりの数になり、キャップはとても被れる状態ではなくなった。


※ピンの重さでキャップが形状をとどめていられないので、中に布を丸めて入れ、
 鍔の部分は野球帽の鍔の形を整える器具で固定してこの形を保っています。



※この様にピンは付けられています。キャップの反対側も同様です。
 キャップの上部に見える国旗のピンは当時香港で見つけました。
 ディポジットにやってきた乗務員達に敬意を表しているつもりで付けていました。


改めて眺めてみると、自分が訪れたところのものだけではなく、わざわざ買ってき下さった方々(乗務員達に限らず社内の人達や友人・知人達も)のものまでもが集まった、ちょっとした「訪れた証」の塊だと思った。

 北京のお店は、店内の音楽のボリュームが低く、会話も十分に楽しめる雰囲気で、店内はガラガラ。観光客、もしくは欧米からの駐在員と思われる人達しか居ない不思議な光景だった・・・など、ピンの都市名を一つ一つ見る度に、訪れたところそれぞれの特徴が思い出された。訪れた記憶がないところのものは、乗務員達やいろいろな方々からいただいものだ。誰からいただいたものか思い出せずにいる悶々とした一時は、辛くもあり楽しくもあった。

 従姉の子供達を連れて行くのにハードロックカフェのウエブサイトにアクセスしてみた。行ったことがある都市名をクリックすると、そのお店の外観の写真が現れてきた。特にシカゴのハードロックカフェはとても懐かしく思え、しばらくシカゴへは行ってないせいか、すぐに行きたくなった。それから、今はこんなところにもあるのだと思った地名もたくさんあり、このときも地球儀の上を飛び回っているような楽しい一時になった。

 日時を設定したこの三月のある土曜日に出掛けて行った。その従姉の子供達が全員揃って一緒に食事をしたのはその時が初めてであった。この春に大学二年生になる末っ子の女の子と会うのは本当に久し振りだった。有名なミュージシャン達の楽器や衣装などが店内の至る所に飾られている。我々の席はオジー・オズボーンの靴や、サイン入りのレコードジャケット等に囲まれていた。友人達と組んでいるヘヴィメタルのバンドでベースを弾いているという彼女は楽しそうだった。

“Tokyo”のピンは既に持っている。この日発売になったジミ・ヘンドリックスの、売り上げがチャリティーになるというピンを買って、すっかり大きくなった従姉の子供達との楽しい時間を過ごしたここ “Tokyo” の「訪れた証」にした。