
MY FIRST COFFEE
(大人になる)事に憧れていた。
あんな大人になりたい、とかこんな大人にはなりたくない、とか。
その想いは特に10代の頃が一番強かった。
とにかく早く大人になりたかった。でもそれは願ってもなれないことだった。
高校1年の春休み、友人と初めて行った神戸への貧乏旅行。
食事はファーストフードばかりだったのだが、どうしても行きたい店があり、半ば強引に友人を誘って入った。
ボクはそこである種(衝撃的)とも言える体験をしたのだった。
まず、入った瞬間に(ここは高校生が来るような店ではない)ことを強烈に実感したのだ。
(店内の装飾品たちがそう言っていた…)
店先のアンティークなコーヒーミル、そして重厚な佇まい、それはどこかの国の教会のようにも思えた。
教会と違ったのは、十字架がなく、マリア様がいなくて、店内がコーヒーの香りに包まれていたことだ。
ボク達はバツが悪い気持ちのまま席についた。
一歩入った以上、戻る訳にはいかなかったのだ。その方がよっぽどバツが悪い。
席についても緊張して、座りなれていない椅子に気持ちはそわそわしていた。
メニューを見てもいろんな豆の名前が書いてあり、さっぱりわからない。
すかさずボクはガイドブックに載っていたコーヒーを注文した。
待っている間も(ちょっと高いね)なんて友人とヒソヒソ話していた。
ファーストフードでもコーヒーなんてまともに飲んだことがないのだ、
値段が高いかどうかなんてわかる訳がないのに随分と生意気な感想である。
そしてボクの目の前に注文のコーヒーが運ばれてきた。
コーヒー店で飲む、人生初の本格的コーヒーである。
まず、その香りが良かった。香ばしい香り、そして高級そうなカップ。
なんか上には白っぽい泡みたいなのが乗ってる。恐る恐る口をつけてすすってみた。
一口泡をすするといきなり熱い液体が口に入ってきた。
猫舌のボクはびっくりしてこぼしそうになったが何とか持ちこたえた。
高校生が背伸びして、カッコつけて飲んだこともないコーヒーを注文するからこういうことになる。
でも気分が良かった。コーヒー店でコーヒーを飲んでいるという自分に満足していただけだが
自分でもわかるくらい顔はニヤニヤしていた。
気分が良く、だんだん落ち着いてきたので、それからはゆっくり飲みながら友人と次に行く場所の話なんかをしていた。
コーヒーを良く見ると、油みたいなものが浮いていた。
(なんだこれ?)
でも言葉にできない美味しさだったことは確かで、ボクはそれ以来コーヒーが好きになった。
ファーストフードでアルバイトをし、コーヒーに対する思いが変わったし、喫茶の専門学校も卒業した。
人生初のコーヒーはフレーバーコーヒー。
今でもフレーバーコーヒーは好きでたまに飲むし、ホット、アイスコーヒーは仕事中や休日など、毎日飲む。
これがどこのなんていう豆を焙煎して...という話も好きだが、
その場所、雰囲気、風....全てを感じながら飲むコーヒーは美味しい。
美味しさってそういう要素も入っていると思う。
専門店で飲むコーヒーには(こだわり)が感じられ、店の雰囲気や窓から見える景色を楽しんだり、
お気に入りの本を持ち込んだりして楽しむ。
アウトドアで飲む時にはアウトドア用のコーヒーミルとパーコレーターを持参。
パーコレーターでざっくり淹れたコーヒーは、風の匂いを感じながら飲む(ワイルド)さがある。
ボクにとってコーヒーは(嗜好品)ではなく、(生活必需品)である。
そしてトラベラーズノートの傍らには、なくてはならないものだ。
あの時飲んだ神戸の中山手にある「にしむら珈琲店」の『ナッツコーヒー』は
ボクの中では口の中の火傷に似た感覚とともに、決して忘れることができない別格のコーヒーだ。
あの時浮いていた油分はナッツのもの。それであの香ばしい香りがプラスされていたのだ。
ここ数年、毎年冬に神戸に行く機会があったが、残念ながらハーバーランドの店には行けなかった。
機会があれば是非もう一度飲みたいコーヒーだ。
今は年齢的には大人と言われる年代になったかと思うので、今度は熱くてびっくりしないだろう。
....ナッツコーヒーはまだあるのだろうか?