

松山
大学時代に使っていたミニ6穴をやめ、次の手帳に決めたトラベラーズノートだが、実際に持ち出して活用するのは鞄が持ち込み禁止になった図書館くらいであった。
予定帳の用途だけでもいいが、どこかに行って使いたいと考えた。浮かんだのは卒業旅行に案が挙がったものの、別のところに決まってしまった愛媛は松山である。
司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読んだばかりということもあり、縁のありそうな場所へ行きたくなった。
当初、気ままな一人旅を想像していたが、思わぬ希望者が現れた。母である。あまりで歩くことに乗り気ではない母にしては珍しい、と不思議だった。だがまあ、私も就職が決まり、来春から忙しくなる。こういったことで母とどこかに行く機会も少なくなるだろう。親孝行の一環と思い、足の手配や行程を決めた。
プランは日帰りで、道後温泉、萬翠荘(本当は愚陀仏庵を見たかったが未だ復興されず)坂の上の雲関連をぶらつくことにした。これらは図書館にあった旅行ガイドを参考にし、トラベラーズノートに書き留めた。
道後がどんなところか見たいと言った母に日程を説明すると、いつに無く楽しそうである。やはりどこかに出かけるのが楽しみなんだろうと思っていると、母が意外なことを語った。
松山は、亡くなった父との新婚旅行の地だったらしい。
両親のその手の話をあまり聞かない私はただ驚き、それでは道後温泉など行っているのではないかとたずねたところ、突発的なものであり、行き当たりばったりで有名どころには行ってないとのことである。
なんだそりゃと呆れたが、母のいつも以上に楽しげな様子も腑におちた。
当日は天候にも恵まれ、暖かい秋晴れとなった。道後温泉本館やその周辺を歩き回り、坂の上の雲ミュージアムで登場人物や時代背景に思いを馳せ、有意義な一日となった。主に私にとって、である。博物館では小説を読んで知っている私は熱中できたが、母は少々退屈なものだっただろう。そう思うと帰りのバスに揺られながら少し後悔したが、もともとこちらが主な旅行内容なのだし、と自分の中で正当化した。
現在、ドラマが放送されている坂の上の雲を、母と一緒にたまに観る。私はバイトの無い日だけだが、母は毎回である。旅行に行って興味を持ったらしい。小説は読む気になれないが、ドラマなら観れるという。
ところどころで私に質問をしてきたり、自分から、博物館にも説明があったところだといって喜んでいる。こうやって後からも思い出して楽しんでいるなら、母にとってもよい旅だったといえるのかもしれない。
機会の一部や、行程で大きな助けとなったトラベラーズノートに感謝を。
(画像は坂の上の雲博物館にあった昔の地球儀です)